生業活動の域内多様度に関する予備的考察

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タイトル別名
  • A preliminary analysis of Hmong subsistence activities
  • タイ北部ナーン県におけるモン村落の事例比較
  • inner-area-variety in Nan province, northern Thailand

抄録

1 はじめに<br> 人々の生業活動は地域により異なっていると考えられるが、ではそれは具体的にどのように異なっているだろうか。これは地理学をはじめとするさまざまな学問分野に共通する大きな問いのひとつである。実際に詳細な現地調査・文献調査から、国、地方、村落といった、さまざまなレベルの大きさの空間とそこに暮らす集団を対象に、それぞれの生業像が描かれてきた。本報告は、一定地域内の特定の民族集団において、生業活動の多様性がどの程度みられるかを村落レベルで検討する試みである。なお、本報告ではこれを生業活動の「域内多様度」と呼び、具体的には、タイ北部ナーン県のモン(Hmong)村落の事例から比較検討する。<br>2 調査対象と方法<br> タイ国の2002年の報告書によると、ナーン県内には29のモン村落がある(MSDHS, 2002)。筆者はナーン県での現地調査を2005年から開始しているが、本報告では、これまでに現地調査を行った22村の事例(2010年9月、2011年2月と9月の調査)について比較検討する。各モン村落では、自給用の陸稲栽培に加えて、換金作物栽培と家畜飼育を行っているが、本報告ではとくに換金作物栽培と家畜飼育の状況から検討する。<br>3 結果<br> 調査対象とした各村落は集落標高から、次の3つに分類できた。A型(5村):標高1100m~1350mに位置する山村、B型(11村):標高400m~900mに位置する山村、C型(6村):標高300m~350mに位置する平地村。<br> 各村落の畑地が分布する標高の高低幅は十分明らかではないが、各村落の集落標高に拠る分類は、換金作物の栽培状況と次の関係を示した。すなわち、B型とC型の村落ではトウモロコシが、A型の村落ではキャベツなどの野菜類が主要に栽培されていた。またC型の村落の一部では、マンゴーが栽培されていた(4村)。<br> 家畜飼育の状況からは、次の関係が確認できた。豚に関しては、A型とB型の村落では4割~8割の家で飼育していたが、C型の村落では、ほぼ飼育しない事例が存在した(地方都市近郊の3村)。牛に関しては、A型、B型、C型に共通して多くの村落で数戸程度が飼育していたが、近隣に放牧可能な林地が存在する村落では(A型の2村とB型の4村)、数十戸程度が飼育していた。<br>4 考察<br> 調査結果からは、集落標高と相関して異なる換金作物が栽培される状況にあること示された。また、山村では行われる豚飼育が、平地村(とくに地方都市近郊の村落)ではあまり行われず、牛飼育は放牧可能な林地が存在する一部の山村においてのみ盛んに行われていた。これらのことは、ナーン県におけるモンの生業活動に、村落レベルの域内多様度が確認でき、それは少なくとも、集落標高(直接には畑地標高)、地方都市との関係、放牧可能地の有無、といった要素から規定されている可能性を示唆する。<br>文献<br>MSDHS 2002. Highland communities within 20 provinces of Thailand, 2002. MSDHS: Ministry of Social Development and Human Security, Bangkok. (in Thai)

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680673172608
  • NII論文ID
    130005456996
  • DOI
    10.14866/ajg.2012s.0_100044
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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