アメリカ合衆国南西部における砂漠都市の盛衰とゴーストタウンの再生
書誌事項
- タイトル別名
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- The Prosperity and Decline basis of Desert Cities and Ghost Towns' Revival in the South-Western Region of USA
説明
1.はじめに<br> 今日,先進諸国のみならず発展途上の多くの地域でも都市化の進展が顕著な時代となった。先進国の都市がいわゆる中緯度帯に位置し,比較的居住や産業発達に適した気候条件下に多いのに対し,近年の都市化は必ずしもそうでない地域でも活発化している。<br> 筆者らは,これまで持続可能で住みよい都市として評価の高いリバブル・シティ(Livable city)の空間構造の特徴について,バンクーバー,メルボルンなど欧米諸都市を中心に報告してきた。これらの都市の多くは自然環境にも比較的恵まれ,都市の発展や持続性の点でハンデとなる条件は少ない。他方,人間の生存環境としては必ずしも快適とはいえない乾燥地は,地球上の全陸地の約4割を占め,もはやそこでの都市開発は技術的に克服可能となった。とりわけ先進国や産油国などの富裕国では活発に都市開発が進み,人口1000万を超えるメガシティも出現した(山下 2010)。<br> 山下は,乾燥地における都市開発の先進事例として乾燥地が広く卓越し,かつそこでの都市開発も活発なアメリカ合衆国南西部(アリゾナ,ネバダ,ユタ,カリフォルニア,コロラド,ニューメキシコの6州)を対象に,すでに本研究の一部として当該地域における都市分布の状況とその要因を明らかにし,ラスベガス,フェニックスなどの急成長下にある大都市圏の成長要因とそれら都市圏の持続性などについて報告した(山下2011)。そこで本報告では,乾燥地における都市開発の持続性の課題と,何らかの要因によって衰退しゴーストタウンとなった事例を検証したい。<br><br> 2.乾燥地における都市開発の課題<br> 21世紀においてはヨーロッパ諸国や日本での急速な人口減少に対して,アフリカ大陸やインドなどでの大幅な人口増加が予測されており,その舞台として乾燥地でも都市化の拡大が懸念されている(UNEP 2006)。すでに中国での西部大開発や中東諸国での石油依存経済脱却にむけた経済発展などを契機に,砂漠都市の成長が著しい。こうした乾燥地での都市開発は,水資源確保のためのダム建設の必要性など自然環境への負荷も大きいことは明らかで,持続可能性の点で大きな課題を抱えている。例えば,アメリカ合衆国では自然環境保護などの観点から,すでに1990年代より大型ダム開発から基本的に撤退している(中澤2003)。<br> 他方,都市の成長を支え促進するためには住民の生活基盤となる産業の存在が必要となる。しかし,乾燥地では多くの水資源を必要とする重化学工業や農業などの発展は多くを期待できない(北川2010)。そのため乾燥地での都市開発の多くは金鉱など鉱産資源開発を契機としているものが多い。これまでこうした地域ではその資源が枯渇する前に一定の人口集積と,それに付随するノンベーシック産業の確立が出来なかった場合,鉱山の閉鎖などによりゴーストタウンとなるケースが多くみられた。そのため,アメリカ南西部においても多くのゴーストタウンの存在が知られているが,それらの多くは一定の範囲に集中的に分布している。<br> このようにゴースト化する街が多くみられたなかで,ラスベガスやフェニックスなど一部の乾燥地都市は大都市へと発展している(山下2011)。ラスベガスはカジノや観光産業を中心に独自の発展の道を歩んできたことは知られている。他方,フェニックスは都市圏内の複数の郊外都市がそれぞれ成長のための基盤を確立し,それらがフェニックスを中心として一体的に発展している。いずれの場合も大都市への成長には水資源の確保が不可欠であるが,コロラド川流域のダム湖であるハヴァス湖からフェニックスを経てツーソンに至るハイデン・ローズ導水路が完成したのは1992年であり,それまでは基本的に地表水と地下水が頼りであった(中澤2003)。こうした方法での水資源確保では,水を供給できる都市の数は自ずと限られるため,結果として一部の都市に人口・産業が集中する都市システムが形成されることになる。 <br><br>3.ゴーストタウンの再生<br> 鉱産資源の枯渇や治安悪化,災害などによりゴースト化した街は廃墟が残されるのみであったり,街の面影は跡形もなくなり歴史地区として指定のみされていることが多いが,他方でその古い街並みを再生し観光地化したり(ex. ツームストン, AZ州),空き家を芸術家らに提供し芸術家村として再生した例(マドリッド, NM州)などもある(Hinckley and James 2010)。こうしたゴーストタウンの再生手法は,先述した日本の地方都市や中山間地の町村などを再生する手法としても参考となるだろう。これらの事例の詳細については当日報告する。<br><br><br>
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2012s (0), 100059-, 2012
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680673188480
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- NII論文ID
- 130005457018
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可