地方都市におけるまちなか居住の課題と取り組み

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  • Problems and Practices of the City Center Residence in Local City

抄録

1.はじめに <br>  大都市圏での都心回帰の進展、都市計画法改正による郊外の大規模集客施設の原則開発禁止など、コンパクトなまちづくりに向けた動きが進むなか、地方都市の中心市街地の活性化は依然遅れていると言わざるを得ない。中心市街地が抱える多くの課題の根本原因は、モータリゼーションを背景とした交通結節性の低下と、居住人口の郊外化による人口減少・高齢化の進展の影響が大きいと考えられる。そのうち、後者に対応する「まちなか居住」の推進に取り組む、あるいは検討する自治体が増えている。本報告では地方都市における「まちなか居住」に関連する課題を整理し、各自治体が取り組む支援策の特徴と問題点を明らかにしたい。<br><br> 2.大都市での都心居住と地方都市のまちなか居住<br>  東京など一部の大都市では、バブル崩壊後の地価下落、企業・行政の遊休地放出、不良債権処理にともなう土地処分などによりマンション開発の適地が増加した。さらに、都市計画法で高層住居誘導地区が導入され、それによる容積率等の規制緩和によって増加した超高層マンションを都心においても手ごろな価格帯で取得可能になったこと、都心居住の利点が見直されてきたことなどによって、都心部で居住人口が増加に転じてきた。<br>   他方、地方都市では中心市街地の人口空洞化への対策として、まちなか居住の推進が課題になっている。地方都市においても中心市街地でのマンション開発は2000年代に比較的多くみられたが、依然として強い戸建て志向と郊外での安価な住宅供給により、相対的に地価の高い中心市街地ではこうしたマンション開発地区以外は人口の減少・流出が続いていることが多い。<br>   大都市の都心部、地方都市の中心市街地のいずれにおいても、それぞれの郊外に比べて日常生活の利便性は相対的に低く、とりわけ買い物難民に代表されるモータリゼーションに対応できない高齢者世帯は負担が大きく、公共交通の利便性が低い地方都市ではより深刻な状況にある。また、首都圏の一部の地域では、大手流通企業の新業態として、小商圏に対応したミニスーパーが立地展開されるなど、都心部の買い物環境は改善されつつある。 <br><br>3.地方都市のまちなか居住の課題<br>  地方都市の中心市街地は、大都市の都心部とは異なり、中山間地並みに高齢化が進展している。そのため、人口再生産の機能が極めて低く、周辺からの流入人口の増加に期待せざるを得ない。たとえば、鳥取県では年間約3,000人の人口が減少しているが、そのうち自然増減によるマイナスはおよそ1割で、それ以外は若年層を中心とした社会減である。つまり、進学や就職などを機会に県外に流出する人口が多く、県内のこうした機能が脆弱であることを示している。県庁所在地レベルの都市であれば中心市街地には一定のオフィス立地がみられるが、それ以下の都市では中心市街地の就業先としては商業施設や医療機関などが中心となり、多くの就業が期待できる製造業の多くは郊外立地であるために、多くの地方都市では郊外での居住の方がむしろ職住近接となる場合が少なくない。近年では、郊外でも工場の閉鎖などが相次ぎ、地方都市の雇用環境は極めて厳しい。<br>  地方都市の中心市街地における商店街の衰退は言うまでもなく、公共交通の脆弱さも深刻化している。そのため、中心市街地に居住するメリットは、比較的整備されている医療機関や図書館など公共施設への近接性、古くからの街並みなど郊外にはない文化的な雰囲気など限定的で、相対的にリバビリティは低い。<br><br>4.まちなか居住推進支援策の特徴と課題<br>  地方都市の自治体は、中心市街地の居住人口減少の影響として、空き家・空き地、駐車場などの低未利用地の増加とそれによる税収の減少、コミュニティ活動の停滞、防犯上の課題などへの対応が新たに必要となっている。こうした課題解決のために、まちなか居住推進のための支援策が多くの自治体で導入されつつある。大別すると、①賃貸・売買など空き家等の情報提供、②持家取得のための支援、③賃貸住宅入居のための家賃補助、④中古住宅の流通促進等のためのリフォーム補助などである。こうした支援策を講じている複数自治体へのアンケート調査の結果、人口規模の大きい金沢市などでは多彩な支援メニューを用意して対応しているのに対し、人口規模の小さい自治体では主にリフォームへの補助が多く利用されていた。これは流入人口による住宅取得ニーズが影響していると思われる。また、多くの自治体の取り組みは国の財源(社会資本整備総合交付金)に依存したもので、そうした都市では事業の継続性が低いことなどが明らかとなった。 <br><br>  本研究は、平成24年度鳥取市委託研究調査「他都市まちなか居住施策実績調査」の成果の一部である。

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  • CRID
    1390282680673231616
  • NII論文ID
    130005473465
  • DOI
    10.14866/ajg.2013a.0_100004
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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