【趣旨説明】持続可能な交通システムの構築に向けた地理学からのアプローチ

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  • Approach from Geography for Establishment of Sustainable Transport System.

抄録

運輸部門の規制緩和から10年以上が経過し,地域社会におけるモビリティ確保に向けた取り組みは,その枠組みを変容させようとしている.かつて,日本における地域公共交通を維持するスキームは,国による許認可のもと,新規参入を制限し,既存事業者を過度な競争から守る体制とする一方,サービス提供からの退出(休廃止)のハードルを高くしており,公共交通ネットワークの大幅な縮小が進行しないよう,配慮されていた.規制緩和により,地域公共交通の分野においても,基本的に競争原理に基づく参入および退出が可能となり,その枠組みは大きく変容した.しかし,実質的に競争が進行した分野は,都市間高速バスや大都市周辺部の大規模住宅地などに限られた.鉄道や乗合バスの事業の大部分は,少子高齢化による通勤通学者の減少,マイカー依存による利用減少などの影響を受けており,既存サービスの撤退が相次ぐ結果となった.<br>その結果,公共交通を取り巻くステークホルダー,すなわち,市民・行政・事業者の相互関係は,近年,大きく変わろうとしている.従来,独立採算の営利事業としてサービスを提供していた事業者,利用者(消費者)としての市民,また公共交通サービスの一応のバックアップを担っていた行政と,相互に依存する関係にあったといえる.規制緩和後,サービスからの退出の自由度が増した事業者と,地域の公共交通ネットワークを維持する責任を従前以上に担う行政,そして,利用者あるいは消費者としての立場のみならず,市民として自ら“まちづくり”を意識し,将来の公共交通サービスの確保に考える市民と,いわば,三者による協働が求められるようになってきている.<br>公共交通の分野は,上記三者のステークホルダーのみならず,土木・工学,経済学などの研究分野,さらに建設業者やコンサルタントなど,さらに複雑な利害関係によって形成されている.そのなかで地理学,とくに近年の交通地理学の研究は,実体的かつ現在進行的な交通現象の分析を進めており,より社会に向けて,活用され得るメッセージを発信することが求められている.<br>超高齢社会,フードデザートの解消,環境問題,さらに中心市街地の空洞化など,様々な要因から,公共交通のネットワークを維持する必要性が高いことは,論を俟たない.しかし,その対策は,どの分野からも抜本的な解決策は提示されておらず,未だ模索の続く状態である.そのなかで,地理学が得意とする,地域の実情を的確に捉え,地域社会のモビリティ確保のための,適切な分析と示唆が求められる.本シンポジウムでは,広く社会的な関心との協調を図りつつ,地理学の研究アプローチに立脚しながら,この課題に対峙したい.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680673246208
  • NII論文ID
    130005473857
  • DOI
    10.14866/ajg.2014s.0_100281
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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