和歌山県におけるインフルエンザ患者の空間的拡散

書誌事項

タイトル別名
  • Spatial diffusion of Influenza patients in Wakayama Prefecture
  • 学校施設間距離による拡散パターンと地域差に関する分析
  • An analysis of diffusion patterns and regional differences by using distance among school facilities

説明

1.研究の背景と目的<br>  疾病地理学,医学地理学などの分野においては,疾病現象の地理的分布と地域環境との関係を扱う際に,最も基本的な分析手法として疾病地図が用いられてきた.今日では,疾病地図を用いた研究はGISと空間分析技術の発達,国立感染症研究所などの機関による感染症サーベイランスの構築,さらに,地理学だけでなく疫学,公衆衛生学,生気候学などの分野による学際的研究の増加によって関心が高まってきている. 本研究で対象とするインフルエンザについて,岡部(2005)は,インフルエンザウィルスは低温で乾燥した気候下で長く生存するが,ウィルスの増殖は,反対に高温多湿の気候下で活性化する傾向があることから,分布と拡散の要因を考える場合,気候条件だけでなく,地域の人文社会的環境の影響もあると述べている.また,Cromley and McLafferty(2002)によれば,疾病現象の空間的拡散には,人口分布を背景とした階層的拡散と,中心部からの距離を反映した波状拡散の2種類のパターンがあり,今日ではこれら2種類の拡散パターンが複雑な地域環境を反映して現れることが指摘されている.荒堀(2012)では,感染症サーベイランスを用いて,和歌山県内における2009年から2010年流行期の学級・学校閉鎖実施校の分布の可視化と,分布指向性分析により,流行地域が北部の紀ノ川流域から西部の沿岸部を南下し,終息期に山間部へ移動していく空間特性を明らかにした.しかし,これは県内の全体的な流行地域の移動を示したものであり,県内諸地域のミクロな拡散を考察しているとはいえない.また,複雑な地域環境との関係を考察するためには,よりミクロなスケールにおける分析が求められると考えられる.<br>  本研究では,和歌山県内のインフルエンザ患者のミクロな空間的拡散パターンを明らかにすることを目的とし,学校施設間距離による分析から拡散パターンと地域差について考察した.<br> 2.研究対象地域<br>  研究対象地域とする和歌山県は,総面積の約81%を山間部が占め,平野部は北部の和歌山市を河口とする紀ノ川流域と,有田市,御坊市,田辺市などの沿岸部の都市周辺にある.北部は京阪神都市圏の一部となっており,南部へ向かうほど過疎地域が多くなる.寺杣ほか(2010)は,2009年から2010年の流行期(2009年8月から2010年2月)は,隣接する大阪府南部において,6月下旬から新型インフルエンザの患者が継続的に確認されるようになり,当該地域に通う人々の中に患者が散見されるようになったと述べている.流行初期に学級・学校閉鎖を実施した学校施設は北部に分布しており,県内へのインフルエンザは北部から侵入し,その後は上記の地域に沿った形で拡散がみられると考え,当地域を選定した.<br> 3.研究方法と資料<br>  分析に用いた資料は,和歌山県福祉保健部健康局健康推進課発行の「集団インフルエンザ様疾患発生速報」である.本資料は,県内の保育園,幼稚園,小学校,中学校,高等学校,特別支援学校(計:854施設)を対象に,学級・学校閉鎖を実施した各学校の時期などの情報が記載されている.本資料より,2009年から2010年の流行期に学級・学校閉鎖を実施した学校施設を抽出し,ユークリッド距離行列を作成した.<br> 4.結果と考察<br>  分析の結果,和歌山市などをはじめとする北部,有田市,御坊市,田辺市などの西側の沿岸部で学級・学校閉鎖実施校の拡散パターンに地域差が認められた.和歌山市周辺では,流行初期に和歌山市中心部から3kmから5km離れた郊外の地域から学級・学校閉鎖が実施され,中心部においては流行のピーク期に入る前から拡散がみられた.沿岸部に位置する都市では,中心部から郊外へ拡散していくパターンがみられた.北部では階層的拡散,沿岸部では北部からの階層的拡散の後,都市内で波状拡散が発生したことが示唆された.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680673264512
  • NII論文ID
    130005473423
  • DOI
    10.14866/ajg.2013a.0_100023
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ