上海市における中心市街地再開発が人口密度分布と住民意識に与える影響

書誌事項

タイトル別名
  • Influences of Redevelopment in the Central Area of Shanghai on Population Density and Resident Consciousness

説明

中華人民共和国(以下,中国と略す)の都市では,従来の中心市街地において大規模な再開発により都市構造が大きく変化した.上海市は中国で最も都市化が進んでいる都市であり,その現象が他都市より顕在化している.上海市の中心市街地に広く分布していた里弄(リーロン)住宅は,商業的な機能を重視する高層オフィスビルと高所得階層向けの高層マンションに建て替えられた.本研究は,中心市街地の静安区で行われた再開発が都市景観と人口密度の分布に与える影響を考察する.また,ヒヤリング調査を基づき,中心市街地における再開発により里弄居住者の意識変化を明らかにする.<br> 静安区は上海市の中心部に位置し,商業地域でありながら再開発対象の里弄住宅も大量に存在する既成市街地であった.静安区は上海市政府が公表した地価分級において1級~3級の地域であり,一等地における商業開発のほか,区の縁辺部の3級地域では住宅開発も行われ,静安区における再開発の土地利用は他の地域より多様である.静安区で実施された再開発事業は,上海市における20年間の中心市街地の再開発事業の縮図と考えられる. <br> 中心市街地の再開発によって,里弄住宅の居住者は世帯の経済的状況と社会的状況に基づき,都心からさまざまな距離にある補償住宅に移転し,人口密度の分布は大きく変化した.本研究では,静安区における居民委員会が管理した地域に基づいて人口データをGISで表示し,土地利用の変化が人口密度の分布に与える影響を明らかにした.その結果,大規模な再開発を通じて,静安区の人口密度は,1990年代の1㎢当たり7万人台から現在の3万人台に減少したが,個別の地域では土地利用と再開発事業の状況によって人口密度が徐々に増加したことも明らかになった.また,再開発されてない里弄住宅などの地域では人口密度が再開発の前より高くなったことも見られた.<br> 上海市の中心市街地における再開発は,住民意識にも影響を与えた.本研究では,2006年2月から2013年5月までに行った家庭訪問事例をまとめ,その実態を明らかにした.その結果,第一に,里弄住宅の居住者は世帯人口の増加や,若い世代の結婚などを考慮して床面積が広くて近代的な多くの数の住宅を希望した.第二に,地下鉄の建設によって郊外地域から都心へのアクセスは多様で便利になり,里弄住宅地域の優位性が薄くなり,住民の中では都心から郊外へ移転したくないという考え方が弱くなった.第三に,近隣関係の継続,住宅に対し持つ感情など社会学的なニーズは,居住環境を改善する要望に比べると低下した.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680673266304
  • NII論文ID
    130005473431
  • DOI
    10.14866/ajg.2013a.0_100026
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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