海外における参加型GISの研究・実践動向

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  • Trends on research and practice of participatory GIS outside Japan

抄録

1.はじめに 主に国外の研究動向の展望を中心として,参加型GIS(PGIS)研究が蓄積されつつある(山下2007;若林・西村2010;瀬戸2010).一方,PGISの実践面に着目し,日本でのPGISの活用例に関する研究(GIS利用定着化事業事務局編2007)も深化されつつあるが,地方自治体の各種政策策定過程でのPGISの継続的な利用に関する研究の蓄積は十分になされているとはいいがたい.このような現状に鑑み,本稿では,PGIS研究で先行するイギリス,アメリカ,オランダを対象として,PGISの研究・活用動向を検討することを目的とした. 2.研究方法本稿では,PGIS研究で先行するイギリス,アメリカ,オランダを対象として取り上げ,これら三国の著名なPGIS研究者(イギリス:Kingston,Cinderby,Hakley,アメリカ:Elwood,Sieber,オランダ:Rambaldi)への対面調査を通じて,PGISの研究ならびに利用の状況を検討した. 3.研究結果 三国での調査結果からPGISの研究・活用動向に関して以下の点を明らかにした.第一に,イギリスではPGISの理論的研究が主であり,政策面での研究はあまり進められていない点である.したがって先行事例として取り上げられることが多い三研究者がPGIS研究を実施したSlaithwaite,York,London等の地方自治体においては,その後政策面でPGISの利用はなされていないことを明らかにした.第二に,日本でのPGISの利用とは異なりイギリスでは,地方自治体ではなく,主に建設・不動産業者への関与を通じて,PGISの活用がなされているという現状を示した.この点は,PGISが活用された各種の政策案に関して行政が,開発指針の遵守や,開発規制への抵触等を吟味するだけで,開発そのものに積極的に関与していないことと関係していることがイギリスでの調査対象者から指摘された.第三に,アメリカの研究者を対象とした調査から,ポートランド・メトロ,シアトル,ミルウォーキー等でPGISが積極的に活用にされていたが,その活用に関しては,自治体によって温度差があり,その根底には,PGIS活用以前に,行政への市民参加の度合いが影響していることが指摘された.またこれまでの実施事業を通じて,約2/3の市民がPGISの活用をポジティブに,残りの約1/3がネガティブに反応していることも指摘された.第四に,近年におけるアメリカにおけるPGIS研究の方向性から,エンパワーメント等に関する議論は今後あまり議論されない可能性があることも示唆された.最後にオランダでは,コミュニティ・マッピングの領域での研究が進み,ファシリテーションを含むPGISの理論・活用に関する講義が行われる一方で,PGISを活用するためのツールも開発されていることを明らかにした. 4.おわりに 上述した三国を対象とした調査で,イギリスにおいては特に, PGISの継続的な利用という面では予想外の結果に終わったが,調査結果から,PGIS以前での行政への市民参加の有無がPGISの活用に影響を与えていることを明らかにした.まだ一部の国においては,PGISの活用を前提として,そのためのツールが開発されていることも明らかにした.これらの知見は,今後の日本でのPGISの継続的な活用に関して参考になるといえる.今後は研究対象自治体での調査を進め,実践に絶えうるマニュアル・ツール等の整備の必要があるといえる.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680673423744
  • NII論文ID
    130005473316
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_326
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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