バンクーバーにおける都市圏構造再編計画と公共交通指向型開発の進展

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  • The Reorganization Plan of Metropolitan Structure and the Transit-oriented Developments

抄録

1.はじめに<br> 持続可能な市街地への再生に取り組む都市が増えるなか、常にそのトップランナーとして住みよい都市のあり方を模索し続ける都市としてバンクーバーを挙げられる。バンクーバー都市圏政府(Metro Vancouver, 旧GVRD)による長年の取り組みは、1996年に策定された『Livable Region Strategic Plan』(以下、LRSP)をはじめとする一連の広域戦略計画による。これまでバンクーバーでは、最大の中心地となるダウンタウンのほかに、規模の異なる2タイプの郊外核を計画的に配置し、公共交通網の拡充と一体的に整備してきた。1990年代以後の人口増加などのために、2000年代後半より都市圏の成長管理の反作用が深刻化している(山下 2010)。こうした課題を改善すべく2011年7月に策定された新しい計画『Metro Vancouver 2040』(以下、MV 2040)では、広範になった都市圏を大きく東西に2分割し、ダウンタウンと並ぶ新都心の整備を図ろうとしている。本報告では、MV 2040の概要と2009年冬季オリンピック後の郊外を中心とした地域で急速に進んでいる公共交通指向型開発の特徴について紹介したい。<br><br> 2.「メトロ・バンクーバー2040」の都市圏再編プラン<br> MV 2040での主な変更点・特徴は、次の通りである。<br>①上述したように都市圏を大きく東西に2分割し、旧来のダウンタウンを西の都心に、これまで南東郊サレー市の中心として計画に位置づけられながら、十分に機能集積がされていなかったサレー・センター(MV 2040ではサレー・メトロセンター)をフレーザー川以東の新都心に位置づけている。<br>②この間の郊外化の進展に対応して下位の郊外核となるコミュニティ型タウンセンターが従前の12ヵ所から17ヵ所に増加した。<br>③これまで対象外であった空港、大学、病院などの公共的施設も、公共交通網に結節されるべき主要施設として位置づけられた。<br>④郊外化が顕著であった南郊には、オリンピック開催にむけてリッチモンド・シティセンター及び国際空港とダウンタウンを結ぶスカイトレイン・カナダ線が新設された。同様に東郊には財政的課題により着工が遅れていたエバーグリーン線が2016年夏の完成を目指して、2012年1月に着工した。<br> 以上のような新たな取り組みにより、LRSP期間の末期に顕在化した成長管理対象地域の内外での公共交通や中心地整備上の地域格差が緩和され、人口増加の中心であったこれらの地域でのリバビリティ向上に大きく貢献することが予測される。<br><br> 3.ポスト・オリンピックの公共交通指向型開発 <br> 2009年の冬季オリンピック開催にむけた前述のカナダ線建設とダウンタウンでの新駅建設などが2000年代後半のバンクーバー都市圏の主要プロジェクトであった。その間、凍結されていた市街地再整備がオリンピック終了に伴って近年再開された。それらの事業の共通点は、都市圏の幹線交通網であるスカイトレインの駅やその周辺で公共施設などの建設が行われていることである。現在進行中の主な事業として次のものが挙げられる。<br>①MV 2040で東郊の新都心として位置づけられたサレー・メトロセンターには、これまで駅前に商業施設と大学のサテライトキャンパスによる大型複合施設が立地していたが、LRSPで同じ位置づけにあった他の広域型タウンセンターと比較してもその機能集積は脆弱であった。しかし、この複合施設に隣接して2011年9月に市立図書館が完成し、現在市役所も建設中であり、当該地区への機能集積が急速に進められている。<br>②ダウンタウンの都市圏の地理的中心から大きくずれる問題点を補うために、1980年代に計画的に整備されたメトロタウンは都市圏最大の商業集積を形成してきたが、郊外化が東郊で顕著であることなどからMV 2040ではサレー・メトロセンターに新都心の座を譲ることになった。メトロタウンでは現在、駅前の大規模ショッピングセンターに隣接して立地していた2棟の超高層オフィスビルの隣りに3棟目のオフィスビルが建設中で、これまで弱点であったオフィス集積の強化が進められることになった。<br>③都市圏で最も早く市街地が形成されたニュー・ウェストミンスター市のダウンタウンは、スカイトレイン駅に隣接しているものの沿道の建物老朽化などにより商店街は寂れていた。老朽化した映画館などの再開発が計画されるとともに、スカイトレイン駅ではスーパーや各種店舗からなる駅ビルの建設が進められている。 <br>

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  • CRID
    1390282680673447552
  • NII論文ID
    130005457200
  • DOI
    10.14866/ajg.2012s.0_100172
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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