ジェントリフィケーションの変動と中国の都市における現状の分析
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- 黄 幸
- 九州大学
書誌事項
- タイトル別名
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- The mutation of gentrification and its appearance in Chinese cities
説明
欧米における四十年以上にわたる研究の蓄積および都市における諸現象の展開に伴って、ジェントリフィケーションという用語の定義は変動した。さらに近年では、グローバル化と新自由主義の影響を受けて、ジェントリフィケーションは欧米以外のグローバル・サウス国家へ拡大し、中央・地方政府の政策と強く関連づけられるようになった。そこで本発表は、ジェントリフィケーションにおける定義の変動過程を整理し、現在における都市の発展状況に適応する広義で柔軟な定義を提案する。それに基づいて中国の都市におけるジェントリフィケーションの現状を分析する。 <br> ジェントリフィケーションは、1960年代にイギリスの社会学者Glassによるロンドンのインナーシティにおける近隣変化に関する報告の中で最初に確認された。労働者階級の居住地へ中間階級が徐々に来住し、老朽化した住宅が更新・修復され、この過程で元々住んでいた労働者階級は立ち退きさせられ、全般の社会的性格が変容することが報告されている。その最初の記述は現在「古典的ジェントリフィケーション」と呼ばれる。その後、1970年代から1980年代にかけて欧米における研究者たちは、ジェントリフィケーションの起因について、「消費サイド」と「生産サイド」という二つの理論をめぐって論争した。前者は、D. Leyが中心的論者であり、産業構造の変化による中間階級の増加を背景として、ジェントリファイヤーたちが生活スタイル・建築への好みの志向によってインナーシティへ移転することが原因であるとされた。後者は、N. Smithの地代格差論が中心であり、衰退したインナーシティにおいて地代が低下しており、そこを開発することによって利潤を得ようとする資本の回帰が現象を起こすとされた(藤塚 2013)。それ以降、この二つの議論はどちらも優位に立たなかったが、ジェントリフィケーションは資本主義の不均等発展・ポスト産業時代・都市文化論という経済・社会・文化現象と関連づけられてきた。1990年代以降、ジェントリフィケーションの「派生」という現象が「古典的ジェントリフィケーション」の元来の定義に異議を申し立てた。例えば、更新・修復だけではなく新築のジェントリフィケーション、都市部だけでの発生ではなく農村のジェントリフィケーション、同一空間で複数回生じるスーパー・ジェントリフィケーションなどの用語が派生し、ジェントリフィケーションについて多様な理解が展開されている。多くの内容が付加され、定義が曖昧になる可能性があることについて、研究者たちは、この用語の広義の定義を採用し、柔軟に利用する態度を保持すべきであると主張する。そのため、ジェントリフィケーションの中核的要素は、資本の再投資、地域への高所得者の流入、低所得者の直接的・間接的な立ち退き、および景観の大きな変化などとまとめることができる。 <br> 欧米のジェントリフィケーションは1980年代後期から1990年代中期まで一時的に停滞したため、一部の研究者はジェントリフィケーションが消滅したと考えた。しかし、1990年代中期から、ジェントリフィケーションはグローバル化と新自由主義の影響を受け、より強い勢いで全世界に波及してきた。広義の定義を踏まえて、権威主義的な中央集権的統治と絡み合いながら新自由主義的諸要素が組み込まれていく独特の市場経済(Harvey 2005)を導入する中国の都市部における研究の可能性は大きい。圧倒的な政府権力と市場の力が絡み合い、ジェントリフィケーションは容易に進展する。ここで、Beauregard(1986)によるジェントリフィケーションの発生の必要条件を踏まえて、中国の都市部における現状を分析する。まずは潜在的なジェントリファイヤーの存在について、沿海部の上海市および内陸部の成都市を例として、産業構造の転換、管理・専門・行政職の人口の都市部での増加を報告する。次に、ジェントリフィケーションが生じうる住宅について、①外来労働者移民が構成するスラム居住地;②老朽化した旧単位制度の公的コミュニティ;③歴史的美しさを持つ旧住宅の三つに整理する。最後に、立ち退きの可能性がある者について、この三種類の住宅に住んでいた外来労働移民・経営難の国有工場における労働者・都市低所得地元住民の存在を提示する。これらの条件により、改革開放政策に従う土地制度改革・住宅制度改革・分権化という中央政府の政策、および地方政府が経済発展のため制定する政策が相互作用し、市場の力が自由に発揮されるため「障害物」が削除される。ジェントリフィケーションは、資本蓄積と経済成長が可能な再開発として中国の都市部で急速かつ大規模に生じるといえる。 <br>
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2014s (0), 100218-, 2014
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680673462144
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- NII論文ID
- 130005473763
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可