猿害対策におけるサル追い払い支援システムの運用と課題 100161

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • The operation and agenda of the assist system of driving monkey away against damage

抄録

  野生動物による人々や農作物への害(獣害)は,防除駆除が困難なこともあり深刻な問題となっており,その被害は拡大している.なかでもニホンザルによる被害である猿害は対策が難しい.本研究は,2003年より活動している猿害対策の市民団体(後にNPO法人化)「サルどこネット」の13年以上にわたる活動と各地での導入・展開の過程を整理して,組織の運営と増加の一途をたどる獣害対策への課題を提示することを目的とする.  <br>NPO法人サルどこネット(以下サルどこネット)は,2003年に三重県で設立された.2000年に三重県事業によって猿害状況(生息・出没・被害)の把握が行われたことにはじまり,2001年には市民団体(サルの会)が組織され,県事業に協力してサルの出没位置情報の公開とデータベース化,被害状況の把握,防除の啓発活動が行われるようになった.そして県内でも集落や農地への被害が大きく,かつ,住民の対策意識の高かったところで,対策の会議がもたれた.これを支え,かつ主体的な取り組みを実施するための組織として2003年に設立され,被害地域の住民,関心を持つ市民,対策関係者,霊長類,生態学,地理学,GISなどの関連する専門家も加わり,2006年にNPO法人化されて現在に至っている. <br>  この活動での特徴は,猿害対策の具体的手段として,集落・農地へサルが近づかないようにするため,サルに対してロケット花火を用いて威嚇して遠ざける「追い払い」を基本とすることである.そのためには,事前に接近を知ることが必要である.このために,電波発信器による群れの把握と位置情報の発信・共有を行うGPS-GISの位置情報取得発信・分析システムを作った.当初はGPS付携帯電話を用いたが,スマートフォンの普及に伴い,どちらにも対応するようになっている. サル群のメスへの電波発信器の装着,サル群れの移動・接近を,電波発信器を用いた探索によって行うための人員と追い払い人員の確保が必要となる.この部分をサルどこネット会員が担うこととなったが,関係する地域の住民も情報提供や追い払いに参加できるようにした. <br>  サルの位置の把握は,サルが群れを構成して移動することに注目して,サル群のメスの1頭に発信器を装着することにはじまる.次いで,その位置を電波探索により把握する.そして位置と関連情報を携帯電話のサルどこネットのサイトに入力し,発信して,サーバよりメーリングリストに配信されると同時にデータベースに蓄積され,サイト上で確認できる.この蓄積データをもとに,登録されている行動範囲や移動傾向を知ることができる.群れだけでなく個別に行動するサルや発信器未装着の群れについても目撃情報をもとにデータ化される.また,携帯電話の入力サイトからでなく,固定電話を用いて出没位置情報を発信することもできる. <br>  サルどこネットの仕組みは,恒常的な情報収集・発信,住民への情報提供,データ蓄積による行動圏や行動特性の分析をもとにした対策考案,猿害の未然防除に活用される. 自主的な活動だけでなく,県や市などの対策事業としても取り入れられ,当初は三重県下での活動が中心であったが,システム導入は8県の地域に広がっている. 組織運営においては,事業委託,追い払いグッズの製造販売,会費を主な財源としている.導入範囲の広がりにより,対象サル群の情報も多くなり,サーバ処理能力の問題が生じている.この対処にはコストがかかるため,今後の大きな課題となる. 出没に対する住民による防除という点で,住民の能動的な取り組みが不可欠となる.さらに継続的な活動が必要である.地道に継続してきたところでは,集落への接近を防ぐことや,作物被害を抑えること行動圏の拡大抑制に成功しているが,そもそも猿害は過疎化,高齢化の進む山間部で多く発生する.このようなところでは,住民の活動は難しい傾向にあり,また出没範囲が広くなると,サルどこネットの仕組みで対応するには困難になる. この点で,被害がすでに発生しているところは疲弊感も強く,「何をやっても無駄」という諦感ももたれている.そこでは,このシステムの導入は難しい.いっぽう,サルが出没し始めたところでは危機感もまだ薄いため,各地での講演や講習も行っているが,そこでの啓発の仕方いかんで対策に取りかかれるかどうかが分かれる. また,群れを追い払うためには,個人的な導入では効果が小さく,地域ぐるみで住民と関係行政が一体となった取り組みが必要となる.この活動を支える社会的なまとまりが存在するか,あるいは作れるかという地域の事情とともに運用を実行するための予算化も課題となる.

収録刊行物

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680673464064
  • NII論文ID
    130006182752
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100161
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ