小氷期における強風災害の変動と夏季の気候状態について

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  • Climate Hazard Variation and the Summer Climate in the Little Ice Age

抄録

文書史料に遺された気候災害などの記録より,歴史時代の気候変動の復元が可能となる。例えば旱魃や長雨,大雪や暖冬は,当時の気候を指示するものとして重要である。それらより寒暖また乾湿の状態が復元され,当時の気候のとくに環境面での特色が明らかとなる。復元された大気状態をさらにその出現について理解するには,大循環モデルによる再現などの援用が必要となる。一方代表的な気候災害である暴風雨などは,寒暖・乾湿とのかかわりは複雑であるが,それらの発生は大気・海洋状態に密接にかかわり,また移動経路は大循環に支配されている。そのため,暴風雨などの気候災害記録の利用により,広域における動的な気候変動の復元が可能となるものと期待できる。気候災害の資料として日本の『日本気象史料』(中央気象台・海洋気象台編,1939)と,中国の『中国三千年気象記録総集』(張徳二主編,2004)を用いる。前者では熱帯低気圧に伴うと考えられる災害は,暴風雨としてまとめられている。後者では熱帯低気圧に対応すると考えられるものは,「颶風」である。県単位で記されているが,起日より隣接する県などでは同一のものを記したと考えられるため,その出現を省単位で集計した。中国の「颶風」による災害は,南東岸にあたる広東省を中心に,浙江省,海南省,上海市,福建省などで多数記録される。内陸部で急減することは,上陸後には勢力が衰えることを示すとみられる。中国の颶風災害と日本の暴風雨災害は,出現が相反するようすがみられるが,太平洋高気圧の盛衰の影響と考えられる。日本の暴風雨と中国の颶風の数は,17-19世紀に大きく変動している。相対的な出現割合は循環の影響と考えられることから,前者をa,後者をbとし,比率をb/(a+b)で示すと,1610年代,1650年代,1700年代,1740年代,1780年代,1830年代の低下がみられる。上記の変動が,夏季の太平洋高気圧の盛衰の影響である場合,その低下期には夏季に太平洋高気圧が衰退ないしは東偏していたとみられる。またこれら低下期は,元和,寛永,元禄,元文,天明,天保年間であり,江戸時代の主要な飢饉の発生年代に対応している。さらにこの元禄年間と天保年間は,17世紀末と19世紀初めの太陽活動低下期に対応しており,地球規模での気候変動と密接にかかわるとみられる。そのため,強風災害の変動にもとづくことにより,気候変動の復元のみならず,その理解も容易になるものと考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680673499264
  • NII論文ID
    130006182776
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100185
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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