埼玉県安戸地域における採石場立地の変遷

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タイトル別名
  • Unravelling the history of the serpentine quarries in Yasudo, Saitama, Japan
  • -旧版地形図を手がかりに-

抄録

国内の石材産業は,西洋建築が導入されるとともに技術導入が始まり,数十年の間に隆盛して多くの歴史的建築物に国産石材が利用されることになった(乾・北原,2009).たとえば埼玉県秩父郡皆野町では,戦前より蛇紋岩石材が採掘され,国会議事堂をはじめ多くの歴史的建築物に利用されてきた(乾・岡島,2011).蛇紋岩石材は,大理石(石材業界では蛇紋岩も大理石に含められる)には珍しい濃緑の色彩や脈のパターンの美しさが特徴で,海外に輸出されていた時期もある優れた資源であった.しかし,そのような石材産業が国内にあったことは今ではあまり知られていないばかりか,もはや歴史を追うことすら難しいという状況である.たとえば,最高級品としてもっともよく知られた「貴蛇紋」という銘柄の採掘場は早くに閉山したため,その正確な場所も今では地域住民の記憶にしかなく客観的な証拠が得られない(乾・岡島,2011).最後まで稼行を続けていた採掘場も閉山し,今後も手がかりが増えることは考え難い.歴史的建築物の価値を適切に評価し,適正な保全を施すためにも,国産石材産業の歴史・変遷について知っておくことが必要である.  そこで本研究は,石材採掘場の歴史を客観的に調査する方法として,旧版の地形図からの採石場データ抽出を試みたものである.国土地理院発行1/25000地形図の「安戸」は皆野町を含む地域で,昭和45年を最初に数年おきに更新され最新版を含めて7版が入手可能である.現地調査および航空写真から判定できる範囲で「採石場」の記号が記載されている.この記号を各版から抽出して重ねたものが図1である.採掘している岩石の種類は,採石場の位置と地質図とを重ね合わせることで推定した(図2).乾・岡島(2011)で現地ヒアリング調査によって探索したいくつかの蛇紋岩採石場について,この方法でも発見できるかどうかを検証した結果,ごく小規模な旧採石場については発見できないものもあったが,現地ヒアリング調査によって解明していた採石場の一部は本研究の手法にて発見することができた.本手法は産業史の観点から長期間にわたる変化を抽出するには最適であった.ただしすべての旧採石場を発見することは難しく,地域住民の記憶証言を補完・裏付ける手段として用いることが適切であることが分かった.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680673555584
  • NII論文ID
    130005457083
  • DOI
    10.14866/ajg.2012s.0_100127
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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