本州亜高山帯林における常緑針葉樹実生の根系構造

DOI
  • 土井 裕介
    京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻森林生態学研究室
  • 森 章
    京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻森林生態学研究室
  • 大園 享司
    京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻森林生態学研究室
  • 武田 博清
    京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻森林生態学研究室

書誌事項

タイトル別名
  • Substrate effects on seedling root architecture of four major conifer species in a subalpine forest in central Japan
  • 定着基質が与える影響

抄録

1. 目的 亜高山帯や寒帯においては、倒木は実生の定着、成長に重要な役割を果たしている。倒木の質は、腐朽具合によって大きく異なり、腐朽の段階が進むと養分や水分の量が増加することが知られている。ところで、倒木上に定着する実生の数もまた腐朽段階に伴って変化する。したがって、それぞれの基質の養分、水分条件や物理的特性にあわせて、実生は根の張り方や形態的特徴を可塑的に変化させているのではないだろうか。さらに、本州の亜高山帯林では、モミ属のオオシラビソやシラビソは倒木と地面の両方に定着するが、トウヒやコメツガはほぼ倒木上にのみ定着することが知られている。このことは地下部における基質への対応が種によって異なることを示唆している。本研究では亜高山帯林において上記の常緑針葉樹種の実生を材料に用い、倒木の腐朽段階に対する根系構造の可塑性を定量化することを目的とした。2. 方法調査地は、中部山岳地帯に位置する御岳山の亜高山帯林で、優占している常緑針葉樹のオオシラビソ、シラビソ、トウヒ、コメツガの実生を材料とした。同じくらいの樹高の実生(8 cm _から_ 12 cm)を定着基質(腐朽段階で5つに分けた倒木と地面)、樹種ごとに6本ずつサンプリングし、腐朽深、樹高、根系面積、根深、主根長、一次根の長さや重さ、などを測定した。また、倒木では腐朽段階1、2には生育する実生がわずかだったため、腐朽段階3、4、5のみを対象とした。なお、トウヒ、コメツガは地面には生育していないため、地面でのサンプリングは行っていない。3. 結果腐朽段階に伴い倒木の腐朽深は深くなった(図 - 1)が、樹高、地下部バイオマスに占める地上部バイオマスの割合(T/R比)、主根長はどの樹種においても基質間に有意な差は見られなかった。オオシラビソでは、倒木の腐朽段階の増加に伴い根系面積は減少し(図 - 2)、根深が増加した(図 - 3)。腐朽が進むに伴い一次根長は短くなり(図 - 4)、一次根重も減少した。また、一次根の重さあたりの根長(SRL;cm/g)は腐朽段階5で有意に大きかった。シラビソでは、基質間で根系面積に有意な差は見られなかったが、腐朽段階の増加に伴い根深が増加した。また一次根長は基質間で有意な差は見られなかった。トウヒでは、腐朽段階の増加に伴い根系面積が減少したが、根深に有意な差は見られなかった。一次根長や一次根重は、腐朽が進むに従い有意に減少する傾向が見られた。またSRLは基質間に有意な差は見られなかった。コメツガでは、根系面積や根深に有意な差は見られなかった。一次根長は腐朽段階4よりも3の方が長い傾向が認められたが、一次根重は基質間に有意な差は見られなかった。一次根のSRLは腐朽段階が進むにつれ有意に減少する傾向が見られた。4. 考察倒木が腐って土に還るまでの流れを、腐朽段階3、4、5、地面(トウヒとコメツガは地面を除く)、として捉え、それに伴って根の形態がどのように変化するのかを考察した。 腐朽段階3から地面という勾配に沿って腐朽深は増加した。それゆえ、根を伸ばすことが出来る領域は、腐朽が進むにつれ鉛直方向に広がる。深根性と言われているモミ属のオオシラビソとシラビソの主根長は基質間で変化しなかったが(図 - 5)、腐朽段階が進むにつれ根深を増加させた。このことから、倒木が腐朽するにつれて主根が立ち上がることがわかる。オオシラビソとシラビソは、腐朽に伴って増加する鉛直方向の領域を利用できることから、トウヒやコメツガに比べ根の可塑性が高いのではないかと思われる。 オオシラビソの根系面積が、腐朽が進むにつれ減少したのは、根の配置を浅く広い根系から狭く深い根系へと可塑的に変化させた結果だと考えられる。一方で、シラビソは腐朽が進んでも1、2本の長い一次根をもっている個体が多かったため、根系面積を維持したと考えられる。腐朽段階が進むと、トウヒは一次根長や一次根重を減少させ、コメツガはSRLを減少させた。これらの変化は倒木の腐朽に伴う養分、水分条件の変化に対応した結果であると考えられる。トウヒやコメツガは腐朽が進んでも鉛直方向へ根を広げずに浅い根系を維持するが、一次根レベルでの可塑性を発達させることで異なる腐朽段階の倒木に定着しているのかもしれない。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680679145856
  • NII論文ID
    130007019215
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.p5038.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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