東京大学千葉演習林におけるミヤマトベラの個体群構造と開花フェノロジー

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タイトル別名
  • Population Structure and Flowering Phenology of Euchresta japonica in University Forest in Chiba,The University of Tokyo

抄録

はじめにマメ科ミヤマトベラ属は1属4種からなり、このうちミヤマトベラ(Euchresta japonoca)は、中国南部、韓国済州島、日本の暖帯林に分布する常緑低木である。日本では茨城県以西の太平洋岸の限られた常緑広葉樹林下に分布する。そのため、各地で個体数の減少による絶滅が危惧されているが、ミヤマトベラについての生態学的研究は全くない。そこで本種の保全に資するため、個体群構造と繁殖様式を解明すべく、比較的大きな個体群が存在する東京大学千葉演習林において分布状況、生育地の植生、個体サイズ、開花フェノロジー、訪花昆虫等の観察を行ってきた。ここでは主に個体群構造、開花フェノロジー、訪花昆虫について報告する。調査地と方法ミヤマトベラが生育する、東京大学千葉演習林の26林班、5林班および42林班の三ヶ所に、個体群の生育面積に応じて2×2m_から_10×10mの4プロットを設定した。各プロットのミヤマトベラ個体群の上層を優占する樹種は、26林班ではスギ、5林班ではモミ、ツガ、42林班ではスギ、カシ、シイで、いずれも常緑樹林であった。また、共に生育していた林床植物としては、テイカカズラ、コバノカナワラビといった湿った環境を好む種であった。各プロットにおいて、ミヤマトベラの各個体サイズ(自然高)を測定し、開花した後に残る枯れた花茎のある個体を記録した。また、プロット4か所で2003年7月3日から全ての花が落下した7月24日まで、週に一度の間隔で開花状況を調査し、蕾の数、調査日に開花していた花の数、花の状態、結実した実の数を記録した。さらに、観察しやすかった26林班のプロット傍に観測台を設置し、7月16、17、18日の3日間、花を訪れた昆虫の行動、訪花株数、プロット内滞在時間をタイムテーブルに記録した。それと合わせてプロット内にデシタルビデオカメラを設置し、後日映像から1花当たり、1株あたりの訪花時間の平均を求めた。結果と考察個体群の個体サイズ:個体サイズは自然高5_から_9cmの個体が最も多く、およそ40cmまでサイズが大きくなるにつれてその数は減少する。各プロットの自然高のヒストグラムはよく似た形となった。また、枯れた花茎のある個体サイズは、10cm以上である事から繁殖可能な個体サイズの閾値であると考えられる。開花フェノロジー:花は総状花序の下から上方へ向かって開いていき、1花の寿命はおおよそ3_から_4日であったが、順次開花する事によって、花序全体としては約2週間咲き続けていた。各プロットで、全蕾数に対する調査日に開花していた花の割合は、どの調査地でも大きなピークが見られた。調査には1週間の間があり、実際の開花のピークであるとは言い切れないが、ミヤマトベラは周りの個体と同調してまとまって花を咲かせる性質があることが分かった。 調査区ごとの結実率はおよそ10_%_と全体に低く、多くの花をつけるが結実に至るものは少ない。しかし、発芽実験による取り巻き種子の発芽率は80_%_以上と高いことから(梅原、投稿中)、少ない種子でも確実に発芽させ、繁殖に繋げる戦略を持っているといえる。42林班と5林班のプロットでは26林班に比べ低い結実率となったが、観察から幼虫(種不明)による食害の影響が大きいことが分かった。 現在、結実した種子の散布について調査中である。訪花昆虫:訪花が確認された7種のうちアリ以外のコハナバチ、ムカシハナバチ、マルハナバチ、カミキリムシ、スジグロシロチョウ、ルリマルノミハムシの6種を同定した。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680679148288
  • NII論文ID
    130007019219
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.p5045.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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