鳥獣行政における環境省と市民団体の関係

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  • Reration between Ministry of Enviroment and civic groups

抄録

__I__ 目的本研究では鳥獣行政における環境省と在京市民団体の関係を実証的に明らかにし、今後の関係について考察することを研究目的とする。特に本稿ではスペースの関係上、現在の法改正や基準の策定に大きな影響を与えた1999年の法改正を巡る動きに重点を置き、環境省と在京市民団体の関係を検討する。__II__ 研究・調査方法鳥獣行政にかかわる文献を収集・検討すると伴に、環境省の鳥獣保護法担当者、在京市民団体の「野生生物保護法ネットワーク(以下、野生ネットとする)」事務局、野生ネットに世話人として参加している5つの在京市民団体の担当者に対して聞き取り調査を行った。これらの聞き取り調査は、2002年10月17日から11月29日の間に行った。なお、本研究においては筆者が調査した在京の自然保護団体を「在京市民団体」とし、それ以外も含む場合は「市民団体」と表記する。__III__ 1999年鳥獣保護法改正の経緯と在京市民団体の活動 鳥獣保護法改正の動きはまず自民党農林族議員が「農林業有害鳥獣対策議員連盟(以下、議員連盟)」を1995年末に設立したところから始まる。これは、シカ、サル、イノシシなどによる農林業被害の軽減のために設立されたものである。また、鳥獣保護法改正にかかわるもう1つの流れは地方分権であり、地方分権推進委員会の2度に及ぶ勧告を一言でまとめると、国が持っていた権限を原則として都道府県に、都道府県が持っていた権限を原則として市町村へ委譲することを進めるものであった。1998年の春頃、野生動物研究者や市民団体が入会している「野生動物メーリングリスト」に「鳥獣保護法が改正されるらしい」という噂が流れ始める。つまりこの時まで、市民団体は鳥獣保護法改正の動きについて殆ど知らなかったのである。そのような中、4月に環境庁が「狩猟鳥獣の捕獲の禁止及び制限の変更等に関する公聴会」を開催。狩猟の規制緩和を進める内容に市民団体が危惧を抱き、ネットワーク設立に向け動き始め、5月1日付けで「鳥獣保護法「改正」を考えるネットワーク(以下、鳥獣ネット)」が設立される。1998年5月には「鳥獣管理・狩猟制度検討会」が報告書を提出する。その内容は特定の個体群の保護管理のための仕組みの創設(以下、特定鳥獣保護管理計画)、地方分権推進委員会による勧告を踏まえての国と都道府県の役割分担の明確化等を提言したものであった。鳥獣ネットはこの内容に対し、市町村への権限委譲をすると、国や都道府県によるチェックが行き届かないため乱獲をもたらす、特定鳥獣保護管理計画は、生息地の復元、保護よりも個体数管理にのみ偏る可能性が高いと批判をした。特に地方分権をしても地方には野生動物管理を行うシステム、人材がないことを指摘した。同年12月の自然環境審議会野生生物部会野生鳥獣保護管理方策小委員会の答申提出後、関係省庁との調整が行われ、鳥獣保護法の一部改正法案が1999年2月に閣議決定される。4月からは参議院先議でこの法案についての審議が始まる。鳥獣ネットは今回の改正は時期早尚として反対運動を繰り広げ、国会審議においては民主党議員と協力関係を結び、国会における参考人として会の世話人を送り込み、反対陳述を行った。このロビイング活動によって議員の発言力が高まり、環境省は法案の不備について厳しく追及された。しかし、5月21日には参議院で可決、6月には衆議院でも可決され、その際3年後を目途に法制度の見直すこと等10点の付帯決議が付けられた。鳥獣保護法の一部改正を受け、「鳥獣保護法「改正」を考えるネットワーク」は7月11日付で「野生生物保護法制定を目指す全国ネットワーク(以下、野生ネット)」に改称し、それに伴い参加団体も増加した。__IV__ 1999年改正とその後の市民運動の方向性1999年の改正では、市民団体の反対意見にもかかわらず鳥獣保護法は改正された。この面だけ見れば市民団体は敗北したのである。しかし、在京市民団体によってエンパワメントされた国会議員が環境庁を厳しく追及したことは、在京市民団体自身に彼らの持つ力を認識させることとなり、国会議員に対する活動を強めることとなった。単に環境省に対して陳情や意見交換をするより、国会議員と関係を持つ事の方に実効性を感じはじめたのである。そして現在では野生ネットの運動の運動方向性は『市民立法』に向かっている。以上のことを総括するならば、野生ネットを構成する在京市民団体は鳥獣保護法を巡る一連の過程を経て、自らの力を認識するとともに確実に国会への関与を強め、「環境省に対して意見を提出する」という段階から「環境省をあてにせず、自らで法案を作成する」という段階に達したといえよう。ここにおいて在京市民団体は、単なる環境省に対する「要望団体」ではなく、環境省のライバル的存在になったと考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680679183104
  • NII論文ID
    130007019269
  • DOI
    10.11519/jfs.114.0.266.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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