宮川中流域の砂礫堆におけるネコヤナギの分布と水際からの比高との関係

書誌事項

タイトル別名
  • The relationship between distribution of Salix gracilistyla and elevation from waterline on the gravel bar, Miya River.

説明

1.はじめに<BR> 河川沿いの砂礫堆では、洪水などの撹乱によって、基質や水分、養分などの立地条件が不均一に分布している。特に水分条件は、水際からの比高の高さに応じて異なる浸水時間から大きな影響を受けると考えられる。このような水分条件は、砂礫堆でよく生育するヤナギ属樹種の分布を決定づける重要な要因である。そこで、水際からの比高の高低が、砂礫堆に生育するヤナギ属樹種の分布を制限しているのではないかと予測した。この予測を検証するために、浸水時間を水分条件として、水際からの比高と浸水時間の関係を検討した。さらに、砂礫堆におけるネコヤナギの生育適地を推測するために、水分条件とネコヤナギ(Salix gracilistyla)の分布との関係を調査した。<BR>2.調査地と方法<BR> 調査地は、三重県南部を流れる宮川とした。2002年7月に、ネコヤナギがまとまって生育していた中流域の砂礫堆に25m×40mの方形区を設置した。ネコヤナギの生育適地を知るために、当年生実生を除く全てのネコヤナギの立木位置図を作成した。調査区の水際からの比高を把握するために横断測量を行い、水際からの比高の等高線を作成した。立木位置図と比高の等高線から、比高0.1m間隔でネコヤナギの単位面積当りの出現個体数を求めた。<BR> 水分条件を比高別に知るために、調査区の約19km上流にある七保水位観測所の1998年、1999年、2001年、2002年の時間水位月表を用いて、調査区の年間浸水時間を比高別に推定し、日数で示した。<BR>3. 結果<BR> 砂礫堆におけるネコヤナギの生育適地を推測するために、同樹種の単位面積当りでの出現個体数の比高別頻度分布を作成した。比高別の頻度分布は、一山型を呈した。比高0.6から1.1mの各比高階では、ネコヤナギが0.48個体/m2以上の比較的高密度で出現し、集中して分布していた。比高0.8から0.9mでは1.48個体/m2を示し、全比高中で最も多くのネコヤナギが出現した。次に比高0.9から1.0mと比高0.6から0.7mで出現個体数が多く、約0.8個体/m2だった。比高0.7から0.8mと比高1.0から1.1mでは、約0.5個体/m2が出現した。比高0.6m以下と比高1.1m以上では、出現個体数は大きく減少した。比高-0.3から0.6mと比高1.1から2.4mで出現したのは0.3個体/m2以下にとどまり、全く出現しなかった比高もみられた。<BR> 各比高における水分条件を推測するために、各比高の年間浸水時間を推定した。ネコヤナギの個体数がほぼ0になる比高-0.3から0.1mでは、1998年と1999年の高水位年には1年中浸水していた。ネコヤナギの個体数が大きく変化した比高0.6mを境にして、年間浸水時間は比高0.6から0.7mでは、比高0.5から0.6mよりも高水位年には55から85日短く、2001年と2002年の低水位年には15から20日短くなった。このように、高水位年と低水位年に関係なく、個体数が大きく変化する比高を境にして、年間浸水時間も急激に変化していた。また、比高が0.1m異なるだけで、水分条件が大きく異なることが判明した。<BR>4. 考察<BR> 宮川中流域の砂礫堆では、ネコヤナギはいずれの比高にも一様に分布しているのではなく、中程度の比高に集中して分布していた。その分布に対応するように水分条件が比高毎に大きく異なった。これらのことから、砂礫堆における水分条件の差異によって、ネコヤナギの生育に適した立地と不適な立地が形成されていると推測される。<BR>低比高の比高-0.3から0.6mではネコヤナギの出現個体数が少なかった。そこでは、年間の浸水時間が長いために、水没期間に呼吸や光合成に支障が生じるなどの浸水によるストレスや河川による個体流失などが原因で、同樹種の定着が困難であるものと推察される。同樹種の生育には適さない過湿な立地であると考えられる。<BR> 高比高の比高1.1から2.4mでは、年間の浸水時間が短くなるために、乾燥ストレスが強まり、発芽率が低下したり、発芽後の死亡率が高くなるものと推測される。このような高比高の乾燥した立地では、水分を要求するネコヤナギの生育には適さないと考えられる。<BR> 比高0.6から1.1mで個体数が多かったことから、この比高では浸水時間がネコヤナギの定着にとって適切であると推測される。そこでは、同樹種が浸水や乾燥によるストレスを受けにくいものと考えられ、生育に適した適潤な立地であると推測される。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680679315968
  • NII論文ID
    130007019383
  • DOI
    10.11519/jfs.114.0.324.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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