三重県尾鷲地域の伐採跡地における獣害防護柵内外の植生更新

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タイトル別名
  • The effect of enclosure fence on the vegetation of replanting-abandoned site in the Owase region, Mie prefecture
  • The difference of vegetation after 1 year
  • 伐採1年後の植生の相違

抄録

1. はじめに三重県尾鷲地域において伐採跡地が近年増加しているが、ほとんどの伐採跡地でウラジロが著しく繁茂してほぼ全面を覆い、木本類がまばらで疎林状態を呈している。伐採跡地を早期に低コストで森林化していくためには、現在の植生とその成因について把握する必要がある。筆者はこのような植生の成因として、ウラジロによる木本類の被陰や更新阻害のほか、シカ、カモシカによる食害(以下、獣害と略す)の影響が強い可能性を示唆した(島田,2003)。ウラジロが伐採跡地のほぼ全面を覆う前には伐採前から生育していた前生樹や、伐採後の先駆種などの発芽が多数ある可能性もあり、伐採跡地の成立本数の少なさには伐採後初期の獣害が大きく影響しているかもしれない。そこで、本研究では伐採直後の伐採跡地に獣害防護柵を設置して、シカ・カモシカの侵入を防いだ箇所と、同一伐採跡地内の未設置箇所において植生調査を行い比較することで、伐採後初期の植生とそれに与える獣害の影響を明らかにし、伐採跡地植生の成因について検討した。2. 調査地と方法三重県尾鷲市内の標高約250_から_300mに位置する、2002年11月に51年生のヒノキ人工林を皆伐した伐採跡地を調査地とした(約1.4haのうち0.57ha)。2003年3月に調査地のうち0.21haを高さ1.8mのステンレス線入りポリエチレン製ネットからなる獣害防護柵で囲んだ。全獣害防護柵内と柵外のうち0.06haについては地拵えによって粗大枝条を片付け、ヒノキ苗木を1000本/haの密度で植栽したが、植栽後、下刈などの施業は行っていない。2003年8月下旬、調査地内に4×4mの調査区を獣害防護柵内に10箇所、柵外に12箇所、設置位置に面的な偏りがないように設けて植生調査を行い、全維管束植物の被度(%)と高さを記録した。また、9月中旬に調査区内の全ての高木性・亜高木性樹種について個体ごとにマーキングを行い、樹高、獣害の有無、侵入時期(前生あるいは後生)を記録した。12月上旬には柵内外からそれぞれ5調査区ずつ選び、個体の生残について追跡調査を行った。3. 結果(1)植生調査でみられた維管束植物と植生タイプ各調査区において種ごとに算出した相対優占度を用い、クラスター分析(ward法)により各調査区を分類したところ、ダンドボロギク型(5調査区)、ダンドボロギク、タケニグサ、ウラジロが優占する草本型(4)、アカメガシワ、タラノキなどが優占する先駆性木本型(7)、アラカシ型(2)、ウラジロ型(4)の5タイプに分けられた。柵内の調査区は尾根部近くの1調査区のみがウラジロ型に分類されたが、その他は先駆性木本型、アラカシ型に分類され木本類が優占していた。それに対し、柵外はダンドボロギク型、草本型、ウラジロ型に分類され、伐採から1年目で柵内とは異なる植生タイプがみられ、獣害を受けにくいダンドボロギクやウラジロ、タケニグサなど草本類が優占していた。(2)高木性・亜高木性樹種の種組成と個体数個体数に柵内外のそれぞれで各植生タイプに分類された調査区群間で有意差はみられなかったため、柵内、柵外の調査区での個体数をそれぞれ平均し、両者を比較した。後生樹は、調査時に柵内の調査区では平均137.2本で非常に多くの個体がみられたが、柵外では獣害の影響を受けて30.2本しかみられず、有意な差が認められた(p<0.001)。前生樹では柵内は平均13.7本、柵外では10本で、有意差はみられなかったが、柵外では80%近くの個体が獣害を受け、樹高も低く押さえられており、今後さらに個体数が減少していくことが予想された。また、12月上旬に個体の生残を追跡調査したところ、柵内では平均100%の生存率に対して、柵外では57.7%で、多くの個体が消失しており、生存している個体の獣害率も上昇していた。4. 考察   伐採後1年目の伐採跡地において、獣害防護柵内外で、植生タイプや高木性・亜高木性樹種の個体数に大きな違いがみられ、柵外でも多くの前生樹や伐採後に発芽した先駆種などがあるものの、獣害を受けてほとんどが消失していることがわかった。尾鷲地域の伐採跡地では、まず伐採後の初期には獣害により多くの個体が消失してしまい、その後のウラジロの繁茂によりさらに残存個体は減少し、新たな更新も難しくなってくるというように、獣害とウラジロの両方の影響を受けて、現在のウラジロに覆われた伐採跡地となっているものと考えられた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680679366272
  • NII論文ID
    130007019427
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.p3031.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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