「木の文化」を未来につなぐ為の森林資源管理
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- Yamamoto Hirokazu
- University Forest in Chiba, The University of Tokyo
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- Ito Nobuo
- International Council on Monuments and Sites
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- Shimizu Shinichi
- National Research Institute for Cultural Properties, Nara
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- Murata Kenichi
- Agency for Cultural Affairs
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- Goto Osamu
- Kogakuin University
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- Tobiyama Ryuichi
- Forestry Agency
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- Ashimoto Hiroko
- Supporter Group for Cultural Properties
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- Trifkovic Stanko
- Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo
Description
1.はじめに文明のシステムが揺らいでいるなかでその基盤をなす土壌ともいうべき文化は時間を超越し、その風土、民族にとって普遍的なものとして存在し続ける。その象徴は再生可能な生物資源を利用した木造建造物である。西欧文化と本質的に異なる循環型社会を築いてきた日本文化を端的に表現しているのが木造建造物である。こうした木の文化を育んだ背景には豊かな森林があり、この森の恵みを巧みに利用してきた伝統工芸技術があり、その表現形として見事な木造建造物がある。豊富な降水量と温暖な気候に恵まれ、暖温帯林と冷温帯林の多様な樹種からなる森林は、気候変動など環境の変化に対応できる柔軟な構造を備えている。こうした森林から、ケヤキ、クリ、クスノキ、ヒノキ、スギ、マツなどの耐久性の高い、優れた構造材を見出したのが日本地域に独特の木の文化である。西欧文化を象徴する構造物が再構築を想定しない一回限りの有限のものであるのに対して、木の文化では樹木の再生により同じ物を再構築することができるのである。有限な資源の中で21世紀の世界は進むべき方向を模索しているが、自然と共生することに原点をおく木の文化はこれに重要な指針を与えることのできる文化であり、木造建造物はその象徴として評価されるべきである。我が国の重要な建造物文化財の90%が木造であり、半数近くの屋根が植物性資材で葺かれている。これらの木造建物や植物性資材で葺かれた建物は、風雨による風蝕や腐朽を避けることはできず、それぞれの建物について定期的に修理を行う必要がある。このような修理は文化財の保存にとって必要不可欠であり、今後も長く続けていく必要がある。本研究の目的はその体制づくりのため、文化財の修理現場と森林資源の管理現場の間で共有すべき情報を提供することと修理用資材の確保について提言することである。2.研究方法1)檜皮;国宝と重要文化財の檜皮葺建造物に限定しても、これらを35年周期で永続的に葺き替えていくためには、常時350,000本の70年生を超えるヒノキ立木を檜皮採取木として確保していく必要がある。檜皮の採取が樹木の成長阻害や材質劣化をもたらすのではないかという懸念が森林所有者から示されている。文化財の檜皮資材を採取するための剥皮行為がヒノキにとって、どのような生理的影響があるかを検証するため、福岡県から千葉県の間にある4カ所の大学演習林のヒノキ80本(うち対照木40本)を対象に剥皮実験を行った。剥皮による影響として、形成層の損傷や内樹皮の剥離が考えられるが、これは採取技術の問題であり、一定水準の技術レベルが維持されるという前提のもとではこのようなことは検証の対象外のことである。剥皮5年後に24本を伐倒し(うち対照木12本)、年輪幅と材質(細胞数、晩材率、色調)について評価を行った。2)長大材;ユネスコ傘下のイコモスの「歴史的木造建造物保存のための原則」では「同樹種」「同品質」「同技術」でなければならないとされている。そのため昭和51年_から_61年に行われた文化財建造物の解体修理や半解体修理の65件の実績報告書から使用された木材を解析した。さらに、日本を代表する木造建造物である法隆寺を対象として、国宝の金堂(世界最古の木造建造物)、中門、回廊、大講堂、綱封蔵に使われている主要な部材27点及び収蔵庫内の古材13点について、規格(長さ、幅、厚さ)と品質(節・年輪幅)を調査し、使用された丸太の規格と採材法を推定した。3. 結果及び考察これまで千年以上にわたって「檜皮葺き」という伝統技術が継承されてきたという事実は非常に重いものがあり、日本文化を守るという観点からこの実験は大きな意味を持つ。文化財の修理用資材として重要な材は、樹種では、ヒノキ、スギ、マツ、ケヤキ、クリであり、材質等では大径材(末口径40cm以上樹齢300年以上)、高品位材(赤身8割以上、無節、上小節、年輪幅3mm以下)、特殊材(幅60cm以上、厚さ70_から_80mmの厚木)である。品等別に見るとヒノキでは無節、上小節で3割を占め高品位なものを求められており、スギも同様であるが、マツでは高い品等の割合が低く、構成材の取替え率は1/3_から_2/3程度で野物材の取替え率が高い。法隆寺の部材調査から長材では12m(末口径42cm)、大径材では末口径80cm(長さ7m)の丸太が必要であり、金堂の扉板には末口径180cmの材が用いられていることが明らかになった。
Journal
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- The Japanese Forestry Society Congress Database
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The Japanese Forestry Society Congress Database 115 (0), P2050-P2050, 2004
The Japanese Forestry Society
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680679649792
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- NII Article ID
- 130007019602
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed