山地小渓流におけるリター堆積場の季節変化と生態系プロセスに対するその意義

DOI
  • 小林 草平
    東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻
  • 加賀谷 隆
    東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻

書誌事項

タイトル別名
  • Spatial-temporal dynamic of litter patches and its implication for ecosystem-level processes in a headwater stream.

抄録

はじめに森林内の渓流では,外来性植物リターが系に供給される有機物の大部分を占め,底生動物二次生産の重要なエネルギー源でもある。日本ではこうした渓流の多くが急峻で,物理環境の不均一性が大きい。渓流内のリター動態と生物プロセスに対して,物理環境の異なる場所は,異なる役割を持つと考えられる。 渓流内でリターは特定の場所にたまりを形成し,リターだまりとして点在している。演者らはこのリターだまりを形成場所を基に異なるタイプ(瀬,淵中央,淵縁)に区分し,タイプによって底生動物二次生産やリター分解などの生物プロセスが異なること,またその形成場所によってリターの移入・滞留パターンが異なることを明らかにしてきた。 本研究では,(1)リターだまり各タイプの頻度やサイズを追うことで,渓流リーチ内のリター堆積に対する,物理環境が異なる各場所の貢献度,その季節変化を明らかにし,(2)その季節変化のメカニズム及び(3)渓流リーチ全体の生態系プロセスに対するその季節変化の意義を,これまでに研究してきたリターだまり各タイプとその形成場所における,リター移入・滞留,分解,二次生産の各パターンにより検討する。方法 荒川源流域の東大秩父演習林,広葉樹林内を流れる7渓流(河川次数1–3),13渓流リーチ(各100m)において,2001年3,5,7月に調査を行った。 各月各リーチにおいて,リーチ内に存在する全リターだまりについて,形成場所を基にタイプ(瀬,淵中央,淵縁)区分を行い,サイズ(河床被覆面積)を測定した。 リターだまりのサイズからリター量を評価するため,各タイプ,様々なサイズの,20個のリターだまりについて,河床被覆面積とリター重量を測定し,リターだまり面積__-__リター重量関係式を作成した。結果 13渓流リーチにおける,リターだまりの平均頻度(100mリーチあたり)は,3月87,5月76,7月22,瀬タイプ41,淵中央タイプ8,淵縁タイプ12で合ったが,リーチ間でばらつきが大きかった。リターだまりのサイズは,瀬タイプが最も小さく平均0.02m2,淵中央タイプが最も大きく平均0.21m2であった。 リターだまりの平均サイズ頻度分布の季節変化を見ると(図1),瀬タイプと淵縁タイプでは頻度,サイズとも月ごとに減少していくのに対して,淵中央タイプでは5月に頻度が増加し,7月に頻度が減少するが平均サイズに大きな変化はなかった。季節変化パターンに関しては,リーチ間に大きなばらつきはなかった。 各タイプにおいて,リターだまりの面積とリター重量の関係は,べき乗関数によく当てはまった。タイプ間で関係式の傾きに大きな違いはなく,面積あたりのリター重量は,淵中央タイプに比べて瀬と淵縁タイプで大きかった。 この関係式より推定した各リターだまりのリター重量を基に,リーチ全体に占める各タイプリター量の割合を求めたところ(図2),3月は淵縁タイプで50%以上,瀬タイプで25%以上を占めたが,5月には淵中央タイプと淵縁タイプでそれぞれ40%を占め,7月には淵中央タイプで80%以上を占めた。考察 本研究により,渓流リーチ内のリター堆積に対する,各場所の貢献度の季節変化が明らかとなった;リターが多く堆積する場所は,淵縁や瀬から淵中央へと変化する。 これまでの研究から,リターの移入・滞留は,秋の落葉供給時には,瀬や淵縁タイプの場所に多いが,春は渓流内のリターの小片化が原因となり,淵中央タイプの場所に多いことが分かっている。一方,リター分解能力は,淵中央タイプで最も高いことが分かっている。リター堆積場の季節変化に,分解パターンが強く影響しているならば,リターだまりの頻度とサイズの減少は,淵中央タイプで最も大きいはずだが,今回実際に減少していたのは瀬と淵縁タイプで,淵中央タイプには頻度の増加も見られた。リター堆積場の変化はリターの移動によるものと思われる。 リターの分解速度,底生動物の二次生産速度は,淵縁タイプに比べて淵中央タイプでかなり大きいことがこれまでの研究より分かっている。したがって,今回明らかにされた淵縁から淵中央へというリター堆積場の季節変化は,リターがリター分解速度,リターを資源とする二次生産速度の高い場所に移動している。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680679805696
  • NII論文ID
    130007019690
  • DOI
    10.11519/jfs.114.0.222.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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