大規模雪崩による渓畔林の攪乱と再生

DOI

抄録

本研究は、1996年に朝日山系の祝瓶山に発生した大規模雪崩により、山麓部の桑住平に形成された渓畔林の攪乱地において、雪崩発生から7年が経過した森林の実態を把握し、雪崩が森林の更新に果たす役割について考察するものである。通常、渓畔林の更新は渓流における流路の変動をともなう土砂移動によるものであるから、今回のような積雪挙動に起因する極めて稀な事例を研究対象として取り上げる意義は大きいと考えられる。 調査地は、山形県南長井市にある朝日連峰大玉山(標高1438m)の南東斜面から発生し、下流部の桑住平(標高約600m)まで達した大規模な雪崩による渓畔林の破壊跡地である。 調査は、1996年8月3日と2003年9月24_から_26日および10月6_から_8日に行った。1996年の調査は雪崩発生後の夏に雪崩跡地において渓流沿いに約1kmの区間を踏査し、出現する損傷木の記録を行った。2003年の調査は雪崩跡地において雪崩による渓畔林の破壊と再生の実態および周辺部の状況を把握するため、雪崩流下跡地(攪乱地)とその周辺の雪崩の影響を受けていない場所(非攪乱地)について雪崩流下方向に対して垂直に横断したベルトを2本設置した。下流から上流に向かって順にベルト1、ベルト2とし、ベルト1は桑住平を横断する登山道から約50m上流に、ベルト2はベルト1からさらに約30m上流に設置した。ベルトの長さは1および2ともに、攪乱地は55m、非攪乱地は攪乱地の両側にそれぞれ40mとり、全長135m×2mのベルトを設置した。これらのベルトに含まれる樹高1.2m以上の樹木について樹種名・樹高・胸高直径を記録した。1)森林の状況攪乱地には樹高3m以内のサイズのよく揃った多くの樹種が密生している。非攪乱地では樹高20mを越える高木が存在し、階層構造が発達している。攪乱地は樹種数(21種)、本数(ベルト1:23725本/ha、ベルト2:29815本/ha)ともに多く、胸高断面積合計(ベルト1:871_m2_/ha、ベルト2:558_m2_/ha)は低い。一方、非攪乱地は樹種数(17種)、本数(ベルト1:11000本/ha、ベルト2:15187本/ha)ともに攪乱地よりも少なく、胸高断面積合計(ベルト1:2713_m2_/ha、ベルト2:4386_m2_/ha)が高い、成熟した林分である。2)生活型と樹種構成1996年の現地踏査では、イタヤカエデ、サワグルミ、ブナ、ホオノキ、ミズナラ、ヤチダモの6樹種が損傷木として記録された。そこで最終到達樹高が20m以上のものを高木性、5_から_20mのものを小高木性、5m以下のものを低木性とし、高木性についてはこれらの6樹種を高木性_I_、その他を高木性_II_とし、4つの生活型に分けた。攪乱地に出現する樹木について、生活型別の胸高断面積合計の占める割合は、ベルト1では攪乱前に上層の林冠を形成し優占していたと推定される高木性_I_の樹種が65%を占めているが、ベルト2では小高木性が45%であり、高木性_I_の33%よりもやや多い割合で出現している。低木性の割合はベルト1および2はそれぞれ11%、12%であり低い。更新の阻害要因となるササはほとんどみられなかった。ベルト2では小高木性樹種の割合が高いので、今後しばらく高木性_I_と小高木性との種間競争が続き、やがてベルト1と2ともに高木性_I_の樹種が上層の林冠を占めていくものと推察される。3)更新様式ベルト1および2について、それぞれ単幹個体と萌芽個体の割合および萌芽個体の樹種割合をみると、どちらも単幹個体の割合が高かった。このことから、多くの個体が実生更新由来によるものと考えられる。また、出現数の少ない樹種や近くに母樹のみられない樹種がいくつか出現していた。これらは、埋土種子由来のものではないかと考えられる。いずれにしても、攪乱地にみられる樹木群は雪崩によって上層林冠が破壊され、光環境が急激に好転したことにより、下層を形成していた個体群が一斉に伸長し、激しい種間競争を展開しているステージにあるといえよう。

収録刊行物

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680679844352
  • NII論文ID
    130007019727
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.p5006.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ