分布最北限ツバメの沢ブナ林における構成種の個体群動態と植生構造の変化

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タイトル別名
  • Analisis on vegetation-sturucture changes and population dynamics in the northern bound population of Fagus crenata, located at Tsubamenosawa,Hokkaido,Japan

抄録

1.はじめに ブナは冷温帯において代表的な優占種であり、その分布北限域は北海道渡島半島のつけね黒松内低地帯に存在する。この黒松内低地帯以北の北海道の大部分はブナを欠く汎針広混交林帯が存在するが、その成立領域のほとんどがブナの生育可能領域WI45_から_85の範囲内であることから、北海道におけるブナの分布はWIをもって説明できない。このブナ北限域形成の謎については古くから様々な研究アプローチがなされてきているが、いまだ定説は存在しない。本研究は、分布最北限ツバメの沢ブナ林における林分構造の16年間の変化の解析から、最北限のブナ林における構成種の動態と植生構造の変化を検討し、よりミクロスケールにおける北限のブナ林の位置づけを試みることを目的とする。2.調査地および方法 ツバメの沢ブナ林はブナ林分布の最北限に位置し、標高約600mの高標高に隔離的に存在する個体群であり、これより北にブナ林は存在しない。ツバメの沢ブナ林においてブナは北西斜面の急傾斜地に生育し、尾根部にはミズナラ林分が、斜面下部にはシナノキ・エゾイタヤ林分、斜面上部にはダケカンバの混交する林分が存在する。調査は、真山・渡邊(1988)が1986年に設定した10×190mの水平推移帯状区、10×140mの垂直推移帯状区を、当時の調査資料をもとに再現した。再現した帯状区において樹高2m以上の全木本種の毎木調査を行った。今回の解析には、胸高直径6cm以上の個体を用いた。また2m高未満の林床植生を対象に被度の記載を行った。3.結果および考察 優占樹種であるブナとミズナラBAはともに増加傾向を示すが、進界個体数密度はブナで156個体(/ha/16yr)、ミズナラで6個体(/ha/16yr)とブナの進界個体が著しく多く存在した。また、新規進界個体数(/plot/ha)と枯死個体数(/plot/ha)との関係をみると、主要高木種のなかでブナは顕著に高い新規進界個体数を示し、個体群の変化は大きいが、ミズナラは新規進界個体、枯死個体ともに少なく、個体群の変化は小さかった。また先駆樹種であるダケカンバは、16年間における新規進界個体が存在せず、一方枯死個体数が多いことから、ツバメの沢ブナ林内において減少傾向を示した。1986年・2002年における林床植生の相対優占度曲線は、1986年時には高い優占性を示す種と低い優占性を示す種との差が顕著であるのに対し、2002年時にはその傾向が薄れ、いくつかの種において優占性の増加がみられた。そのような種の多くが、ブナ_-_チシマザサ群集および群団標徴種(ミネカエデ・ハウチワカエデ・アズキナシ・ハイイヌガヤ・ハイイヌツゲ・エゾユズリハ・アクシバ・オオバクロモジなど)(福嶋ら1995)であり、ブナ林構成種が増加してきていることが明らかとなった。また林分別に検討したところ、各林分とも、チシマザサの優占度の減少がみられ、ブナ_-_チシマザサ群集および群団標徴種の優占度および種数の増加がみられた。また、チシマザサの優占度の減少やオオカメノキの優占度の増加は、林冠のうっ閉にともなう林内光環境の変化が示唆され、ブナ個体群の成熟段階に応じた植生構造の存在が検出された。以上のことから、ツバメの沢ブナ林では多数のブナ進界木の存在や先駆樹種の減少、また林床におけるブナ林構成種の増加やチシマザサの減少などが特徴付けられ、ブナ林として発達途中と捉えられる。よって、分布最北限ツバメの沢ブナ林は、ブナ純林としての一般的構造にはいたっていない可能性が考えられた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680679846400
  • NII論文ID
    130007019730
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.p5003.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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