公有林野入会の存続とコモンズ

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Sustainable Management of Community Forest as commons
  • -岡山県蒜山地区を事例に-

抄録

1.目的<BR>岡山県蒜山東部に位置する川上村には、火入れ採草地と呼ばれる原野が存在し、集落住民による管理が継続している。火入れ採草地とは林野への火入れによって維持されている採草地のことを言う。火入れとは春に林野に火を入れて野草の萌芽を促す行為のことである。蒜山地区ではかつて水田の肥料に、刈敷よりも採草による堆肥を多用してきた。しかし現在、採草自体は行なわれていない。火入れ採草地の多くは村有林野である。火入れの範囲は各集落の旧入会地に重なる。採草地の公有林野入会とみなしてよい。<BR>本研究では公有林野入会と集落のコミュニティ形成の関係を集落の火入れ管理の仕組みを見ることによって明らかにしようと試みた。<BR>2.調査方法<BR>__丸1__土地利用の変化及び火入れ採草地の分布を確認するため、集落の精通者に対する聞取り調査。__丸2__「火入れ採草地」マップ作成。現在の「火入れ採草地」の位置と周辺の土地利用状況を森林基本図に記入。__丸3__各集落の火入れ管理の仕組みについて聞取り調査。<BR>3.公有林野入会の成立<BR> 川上村の林野面積は3479ha。うち村有地面積が2242ha。採草地面積は220haである。川上村の入会林野の多くは1907年から始まる「公有林野統一事業」により、集落の入会地のほとんどが村有地となる。<BR> 1911年「公有林野整理并使用条例」(通称「林野条例」)が制定され、住民は旧入会地を管理する「保護者」と位置づけられ、ただし、使用に際しては料金を払うことになった。薪炭林や採草地の使用料は集落ごとに支払う。なお1899年から1917年まで蒜山原野は陸軍軍馬補充部に編入され、さらに1935年から45年までは陸軍演習場となり採草地の利用は制限された。戦後、一部が開拓者の入植地や鳥取大学演習林へ編入され、60年代以後の拡大造林により、採草地はさらに狭められ、村有地の減少をみた。<BR>なお、現在では人工草地の開発、大根生産のための畑地利用といった個人の営利目的で集落を介さずに直接利用することも可能である。<BR>4.調査結果<BR>(1)火入れ面積と火入れを行なう集落の減少<BR>川上村役場の「火入れ許可申請書」の集計によると1950年代まで火入れ地は600ha前後、火入れを行なう集落は全32集落のうち23集落だったが、現在は約120ha、11集落である。<BR>(2)「火入れ採草地」の土地利用の変化<BR>戦後、堆肥生産は後退の一方で、採草地の土地利用は多様化した。1965年頃から10年ほど人工草地あるいは造林地への転換が進んだ。その後、大根畑へ変化が激しくなり、90年頃から放棄地が増加する。<BR>(3)「火入れ採草地」の入会権者と集落の関係<BR>各入会集団の入会権者数、火入れ面積、火入れの仕組みを表した(表__-__1)。<BR>__丸1__白髪、延助、天王、湯船は集落全世帯が入会権を持つ村中入会の形態をとる。__丸2__南田、熊谷、別所は観光開発により集落外からの移住者が増え、古くから集落に住む世帯にのみ入会権が与えられる一部入会の形態をとる。__丸3__この3集落は大字本茅部を形成し入会林野を保持している。現在の火入れ採草地が放牧場として設定されたときの牧野組合員(当時の3集落全世帯)に対して入会権を与えている村々入会の形態をとる。__丸4__大在所とは戦時中に人手不足になったおり、入会地の管理を効率的に行なうため、4集落が共同で管理し始めたことで発生した入会集団であるが、入会権は4集落の全世帯および、終戦後、隣接集落の一部住民にも入会権を与えており、現在は他村入会の形態をとる。<BR> (4)火入れの仕組み<BR>火入れは全入会集団で毎年3月下旬から5月上旬の日曜日に行われる。責任者を決め、役場と消防署に対し許可書の提出が義務付けられている。1984年には火入れに関する条例が制定された。作業は丸一日かけて行われ、作業後は慰労会を行なう。不参加費を徴収するのは3集落のみである。女性の参加が認められているのも、日曜日でも男性が参加しにくいことに対する配慮である。<BR>5.考察<BR>多くの入会地が個人分割して管理する形に移行することが多い中、川上村における火入れを通した林野管理は住民が参加可能な形に変化しながら止むことなく続けられた。<BR>これは公有地化によって個人分割がされずに現在に至った結果である。同じ蒜山地区の八束村では個人分割された旧入会林野が観光開発の対象となっている。また、集落においては毎年火入れを行なうことにより、コミュニティのつながりの確認と入会権の存在の確認がなされている。<BR>ここに、コミュニティを基礎とした林野管理の可能性をみとめることができる。<BR>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680680138752
  • NII論文ID
    130007019888
  • DOI
    10.11519/jfs.114.0.16.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ