中国東北部の森林資源の減少と劣化に関する歴史の分析

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タイトル別名
  • Historical analysis of deforestationand degradation in Northeastern China.
  • Development of cutting technology in the Period of odl manshurica
  • 旧満州時期における伐出技術の進展について

抄録

1.背景と目的中国東北部はここ100年の間,中国でも主要な木材供給基地としての役割を果たしてきた。そのため当地域の森林資源は急速な減少に加え,その質的内容も大きく変化した。以前の原生的な天然林は,戦前・戦後の収穫技術の発展に伴って大きく姿を変え,同時に造林事業の進展によってカラマツを中心とする拡大造林地が急速に広がった。したがって今日の現存する森林資源の実体は,過去100年の施業・利用史的産物として捉えることができるが,こうしたかつての森林施業および経営の実態を明らかにし,その教訓を今後に引き継ぐことは,長い生産期間を有する森林経営にとっては極めて重要な意義を持っている。そこで本研究は戦前・戦後の中国東北部の森林経営史研究の一環として,旧満州時期の木材生産力の拡大を実現した生産技術の実態を,特に伐出技術の発展に焦点を当てつつ明らかにすることを目的とする2.旧満州時期における木材伐採量の推移1902年日本政府は,ロシア進出に対抗するため鴨緑江流域の朝鮮領内に採木公司を設立し,木材生産の一大拠点を築いた。日露戦争に勝利した日本は,さらに資源獲得と長期的な満州地方の支配を強めるため,販路の拡大と企業の進出を企図し,鴨緑江流域から間島地方,さらには吉林地方から東清鉄道へ順次その勢力を拡大した。’31年,満州事変を起し,翌年の初頭までにほぼ東北部一帯を支配下に置き,傀儡国家満州国をを打ち立てた。この時点で軍需産業の育成を課題としていた日本軍は,’33年に「満州国経済建設綱領」を定め,鉄や石炭を中心とする天然資源開発進め,’37年には対ソ戦準備を目的に,鉱工・農畜産・交通通信・移民の4部門での生産力拡大を目指す「満州産業開発5ヵ年計画」を実施した。こうした軍需産業を中心とする経済の伸長を図る中で,森林資源は極めて重要な役割を演じた。’24__から__’42年までの木材伐採量の推移をみると,’30年代前半までは比較的安定した生産量であったが,その後急速な伸びを示した。特に’30年代後半から’40年代初頭にかけての伸び率は高く,その結果,わずか10年で約5倍近い年伐採量を実現した。3.伐出技術および生産設備の進展中国における従来の伐木・造材技術は,主に2人挽鋸と大型の帯鋸,および斧等を使用し,単純な作業工程でしかも伐倒方向は一定しない危険を伴うものであった。しかし日本からの移民の増加に伴って,良質な道具が徐々に入り込み,特に’36年の林業開拓民の入山によって,日本製の大鋸,斧,鉈,鍼,刃広,鳶,角廻し,木回し等の効率の良い良質な道具が普及した。これにより,伐根位置の低下や楔の使用による伐倒方向の制御等が可能となり,作業の安全性と能率は格段に上がった。また集材作業では,藪出しには橇の使用,中出しの流送には各所に日本式の鉄砲堰が設けられ,支流からの流送量の割合も増加した。さらに効率良く流下材を集めるため網羽も使用された。また満州国内の鉄道網が急速に伸長する中,木材搬出用の作業用軌道も普及し出した。特に’37__から__’39年のわずか2年間で,246キロが敷設されると同時に,森林鉄道も37__から__41年の4年間で350キロが延長された。こうして主用幹線鉄道の延長,森林鉄道と軌道の敷設に伴い,木材の輸送量は格段に高まることとなった。こうした輸送量の増大に伴って,大型な貯木場も各地に建設された。’37__から__’41年に落成した貯木場は6箇所で総面積144haとなった。また採木公司の拡大と製材工場の増加および生産能力の向上も高まった。’38年の工場数は前年度の15%,製材能力は26%も増加し,こうした工場数・生産能力の増加傾向は’40年代前半まで続くことになる。4.おわりに日本政府は日露戦争の勝利によって鉄道および付属利権を獲得し,中国東北部での足場を固めた。さらに満州国を建国し,軍部の独占的支配が整うことによって,天然資源の利用と軍需産業の拡大を進めた。こうした情勢の中で,森林の開発とその資源利用は,日本の林業技術の移入,特に伐出技術の導入と,搬出・運搬技術の高度化を進め,より高い効率性を実現した。加えて製材工場の生産能力を高めたことによって,特に30年代後半より木材伐採量の急激な増大を実現した。満州国建国後のこうした大規模の森林開発は,森林資源を急速に減少させ,また良質な大径材の優先的略奪は,森林そのものを劣化の方向に向かわせた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680680158080
  • NII論文ID
    130007019909
  • DOI
    10.11519/jfs.114.0.144.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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