マツノマダラカミキリの生息数調査

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Investigation of Number of the Japanese Pine Sawyer on Sakurajima island

抄録

1.はじめに鹿児島県桜島では、マツ材線虫病による被害は周囲に比べてごく少なく、集団的な枯損はほとんど見られなかった。しかし、被害は1997年から急激に増加し、2000年以降全島に拡大してきている。桜島で行われた生け捕り型トラップによる調査から、マツノマダラカミキリ(以下、カミキリ)の捕獲数とトラップ周辺のマツの枯損程度には関係があることが示唆されている。そこで今回、カミキリの標識再捕調査を行い、カミキリの生息個体数の推定を試みるとともに、マツの枯損状況との関係について検討した。2.方法桜島東部に位置し、クロマツの優占する溶岩台地である黒神溶岩内のクロマツ林分を調査地に設定した。面積約1haのこの林分内に調査開始時に生育していたクロマツは367本であったが、10月9日の時点で約5割の189本が枯死していた。2002年5月23日に、生け獲り型に改良したサンケイ式昆虫誘引器を15器は林分内、8器は林外の道路沿いに、約4__から__9mの高さに設置した。調査はトラップの設置後9月19日まで毎週2回、その後10月9日まで毎週1回行った。誘引剤の補充は隔週で行った。毎回の調査では、捕獲されたカミキリを回収し、個体識別をするため、上翅に4色のペンキを用いて標識を行った。標識後、カミキリは捕獲されたトラップが設置されていたマツの幹や枝に放した。3.結果今回の調査で、カミキリは5月27日に初めて捕獲され、9月19日に最後の個体が捕獲された。捕獲のピークは6月中旬であった。これは、同年の他の調査における桜島島内のカミキリの捕獲パターンとほぼ一致していた。標識されたカミキリは総計436個体であったが、再捕獲されたものは2個体だった。そのうち、林内に設置したトラップで捕獲されたカミキリは254個体で、再捕獲は1個体のみであった。各捕獲日におけるトラップ当りの捕獲数の平均値と平均こみあい度の関係からカミキリの成虫個体群の空間分布を解析したところ、調査地に生息するカミキリは林内、林外共に個体単位で集中的に分布していた。4.考察空間分布の解析結果より、カミキリの集中分布が示されたが、実際に捕獲されたカミキリ個体数はトラップ毎に差があった。カミキリは、高い木や開けた場所に位置する木に設置したトラップで多数捕獲された。これは、カミキリの行動様式と関係があると思われる。カミキリが多く捕獲されたトラップ周辺では枯損が激しい傾向が見られ、トラップによる捕獲状況と周辺に生育するマツの枯損状況との関係を裏付けるデータの一つと考えられた。今回、再捕率が非常に低かった原因としては、カミキリの移動が極めて活発であったという可能性と、生息個体数が極めて多かったという可能性が挙げられる。カミキリの移動に関しては、調査時に放したカミキリが遠方まで飛翔する様子が何度も目撃されたため、実際にカミキリは活発に活動を行っていると思われる。一方、今回の再捕率のレベルは移動力の高さのみを原因にするには低すぎるようにも思われる。即ち、極めて高い個体数がこの林分に生息しているという可能性も無視できない。もし、実際にこの再捕率の低さが個体数の高さを意味するならば、現在桜島で進行している急激な被害の拡大を説明できるかもしれない。捕獲数と再捕率から単純な試算をしてみると、調査地には約5万個体ものカミキリが生息していた計算になる。この林分における今年度の枯死本数と、カミキリの集中分布傾向を考えれば、予想外に多数のカミキリ個体が1本のクロマツの枯死に関与しているのかもしれない。いずれにせよ、カミキリの生息数調査は、マツ材線虫病によるマツ枯れ被害の動向を知る上で大変重要であり、今後も被害の拡大が懸念される桜島においては調査の継続が必要であると考えられる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680680216960
  • NII論文ID
    130007019938
  • DOI
    10.11519/jfs.114.0.135.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ