わが国における地場産材を利用した住宅生産過程の各地域の取り組みについて
書誌事項
- タイトル別名
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- The Programs of building houses used woods harvested from nearby forests in Japan
説明
わが国における地場産材を利用した住宅生産過程の各地域の取り組みについて○攝田哲夫、堀江亨(日大生物資源) 1.はじめに 近年、国産材需要が低迷する中で、国産材需要促進、持続的森林管理などの見地から、地場産材を利用した住宅建設が日本各地で行われている。これらの取組みは、従来の流通形態とは一線を画し、新たな形態を築いている。そして、この新たな形態を支援するために、様々な団体が現れ活動している。各団体の主体者は、工務店、住宅メーカー、建築設計事務所、民間主導など様々である。今回はその中で、共同組合組織の「東京の木で家を造る会」、住宅メーカーが主体の「神奈川の木で家を造る会」、工務店が主体の「秩父杉でつくる家の会」の三団体について調査した。そして、各団体の活動の違いや、各地域での形態の違いを明らかにし、地場産材を利用した住宅生産過程の問題点を検討する。2.方法 2002年8月24日に、「神奈川の木で家を造る会」を主宰するE社代表取締役に、2002年10月9日に「秩父杉でつくる家の会」を主宰するK建設代表取締役に、2003年1月24日に「東京の木で家を造る会」事務局長にそれぞれ聞き取り調査を行った。また、一般会員の募集も行っている神奈川の団体と東京の団体については入会し、その団体の活動実態を明らかにした。3.結果 各団体の組織については、神奈川の団体と秩父の団体は、一企業が中心となって運営している団体であるのに対し、東京の団体は「東京の森林で持続可能な林業経営をする」という意識で出来た共同組織である。この東京の団体の組織は、主体となる「事務局」、林家や製材業などが含まれる「造る会会員」、施主やこの団体に賛同した個人などが含まれる「ユーザーの会会員」の三部門によって構成されていた。各団体の運営理念としては、神奈川の団体と秩父の団体は利益を第一に考えているのに対し、東京の団体は利益追求や低コストに抑えることよりも、持続可能な森林管理の意識が優先した考えのもとに活動していて、団体の組織や理念に違いが現れた。そのため、前者の二団体は勉強会などは行うものの、施主の意向を尊重するかたちであり、在来工法や外材を用いた住宅も建設することもあった。また前者の二団体は、コストの面から一軒の住宅の総木材使用量に対する地場産材の使用率は、ともに8割前後にとどまっているという。一方東京の団体は、林家・製材所・工務店・建築家・施主・一般者の参加する勉強会を重ねることで、東京の木材を使うことの意味を理解させ、地場産材を使用している。そのため、活動初期は地場産材利用率は低かったものの、現在では地場産材利用率100%を達成している。 団体の活動は、三団体とも施主を含めた一般者への勉強会や、植林・林内作業のイベント等が行われ、森林についての知識を深める場が提供されていた。 各団体における造林から住宅建設までの過程を図1に示す。神奈川の団体は、会員でもあり山林を所有している製材業者に直接交渉し、材を入手しているという。また、神奈川の団体は住宅メーカーが主体になっているため、その後の工程は設計から建設にいたるまで、神奈川の団体の中で行われるという。 秩父の団体は、会員である製材業者が林家に直接交渉し、材を購入しているという。秩父の団体の主体者は工務店であるが、建築士もいるので、その後の工程は団体の中で行われるという。 東京の団体では、造る会会員である林家・製材業者・設計事務所・工務店が協力することで、全ての工程が会内で行われている。この際主体者である事務局が、ユーザーの会会員の施主と造る会会員とをつなぐ役割をし、施主を含めた積極的な打ち合わせが行われるようになっていた。そのため、施主が林内に入って住宅建設に使用する材を自分で選ぶこともできるシステムになっていた。また、この団体では、建築端材をペレットとして利用する試みも動き始めている。4.考察 これらの団体が関与して建てられた住宅は、従来のような新建材を使わず、無垢材を多く用いた住宅であり、在来の一般住宅とは大きく違っていた。また、ただ単に国産材を多く使用するばかりでなく、施主に森林や林業についての理解を深めてもらう点も、一般の住宅建設とは違っていた。しかし、主体者が違うことで、同じ地場産材を利用した住宅建設でもそのあり方が大きく違うことが分かった。
収録刊行物
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- 日本林学会大会発表データベース
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日本林学会大会発表データベース 114 (0), 396-396, 2003
日本森林学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680681781632
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- NII論文ID
- 130007020370
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可