九州北・中部低山帯の褐色森林土の遊離酸化物組成

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Constitution of free oxides of the brown forest soils in Kyushu north and the central part

抄録

従来の木材生産機能に限らない公益的機能の発揮が森林には求められているが、その評価手法に関しては現在様々な方向からの研究がなされている。これらの成果を日本全土にわたって広域的に適用するためには、その基礎となる立地情報が明確である必要がある。森林土壌についてはこれまでの調査事業により土壌図が作成されているが、その基準となる土壌分類には資料数が少なく基本的化学特性が不明確な土壌が存在する。その土壌の一つに黄色系褐色森林土が挙げられる。黄色系褐色森林土は日本の森林土壌の約7割を占める褐色森林土の亜群の一つであり、その分布は赤色土と関連し、本州中部以西の丘陵地に多く見られる。また黄色系褐色森林土を含む暖温帯丘陵地の土壌を成帯性を示す黄褐色森林土として褐色森林土とは異なる位置付けにあるとする意見もある。しかしこれら二者の考え方は相容れない。そこで本研究では、暖温帯に位置し赤色土の分布も見られる九州北・中部低山帯において褐色森林土群の調査を行うことにより、典型的な褐色森林土と黄色系褐色森林土の化学特性の違いを明らかにするため、風化過程の違いを反映する遊離酸化物組成について検討を行った。調査は、福岡、佐賀、熊本、宮崎県下の標高500m以下の低山帯を中心に、宮崎では標高による気候変化も考慮し標高1270mまで調査を行い、褐色森林土17断面、黄色系褐色森林土8断面、赤色土3断面、未熟土、黒色土各1断面の計30断面を採取した。土壌断面は基岩もしくは土壌深2mまで作成し、各層位より分析試料を採取した。これらの地点の表層地質は花崗岩、砂岩、蛇紋岩、石灰岩、角閃片岩、溶結凝灰岩であった。遊離酸化物はジチオナイト可溶鉄(Fed)、アルミニウム(Ald)、シリカ(Sid)、酸性シュウ酸塩可溶鉄(Feo)、アルミニウム(Alo)、シリカ(Sio)、ピロリン酸ナトリウム可溶鉄(Fep)、アルミニウム(Alp)についてICP-AESにより定量した。遊離酸化鉄は、アルミニウムやシリカより含量が多く、褐色森林土群では主となる酸化物である。概ねFedが一番多く、FeoとFepの違いは小さく断面により順序が異なった。角閃片岩や石灰岩由来土壌ではFedがFeo、Fepに比して非常に高い値を示した。花崗岩由来土壌は他の地質のものより低かった。このような母材による違いは見られたが、土壌亜群による違いはみられなかった。遊離酸化Alは、Alpの優占する土壌が約7割を占めていた。Alp画分は有機物複合体をあらわし、AldやAlo画分に含まれる結晶質あるいは非晶質の部分は抽出されない。従ってこれらの土壌では遊離酸化Alは有機物複合体としてのみ存在している。また約4割の土壌は第二層以下にピークを持ち、最表層よりの移動集積の可能性がある。宮崎高標高域土壌では遊離酸化Alが多く、火山灰由来土壌に類似する分布様式がみられた。遊離酸化Alも鉄同様、土壌亜群による違いは見られなかった。遊離酸化Siは蛇紋岩由来土壌でやや高く、Al同様、火山灰混入によるとみられる増加が宮崎高標高域土壌に見られるのみで、土壌亜群による違いは見られなかった。鉄の活性度Feo/Fedは、褐色森林土と黄褐色森林土を区分する指標とされ、褐色森林土はFeo/Fed≧0.4の次表層を少なくとも一つは持つとされる。供試土壌では、黄色系褐色森林土、赤色土のうちFeo/Fedが0.4以上の次表層を持つのは1断面のみで、残りは黄褐色森林土に区分された。褐色森林土では7断面のみFeo/Fedが0.4以上の次表層を持ち、残りはこの区分での褐色森林土の基準を満たしていなかった。土壌亜群ごとの次表層におけるFeo/Fed値は、おおよそ褐色森林土>黄色系褐色森林土>赤色土となり、活性度は土壌の風化程度に沿って低下していた。しかし有意に異なるのは褐色森林土と赤色土間だけであった。このように褐色森林土が低い範囲までの幅広い活性度を示すことは既存の研究結果と一致しており、活性度はこれらの土壌亜群の区分基準となりえない。日本の統一的土壌分類体系(第二次案)でも、一次案で採択していた鉄の活性度を境界領域の森林土壌では適合しないとして取りやめている。これらの結果、褐色森林土には風化程度の異なるものが存在するが、それにより形態的特徴に差異が現れることはないものと考えられた。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680681918720
  • NII論文ID
    130007020443
  • DOI
    10.11519/jfs.114.0.429.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ