スペクトル解析を用いた、東アジアカラマツ林における蒸発散特性の解析

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タイトル別名
  • Evapotranspiration at Larch forest in Eastern Asia : a wavelet analysis across multiple time scales

抄録

森林は蒸発散を通して地球の水循環に大きな影響を与えている。森林のうち、高緯度地域や亜高山帯に成立するタイガ林は地球の森林面積の約30%を占め(FAO, 2003)、その面積の大きさからタイガ林が地球規模での水循環に与える影響は多大なものである。また、タイガ林では現在地球温暖化の影響が顕著に現れており、地球温暖化と森林の関係を考える上で重要であるといえる。本研究では、東ユーラシアにおけるタイガ林の代表的な樹種であるカラマツが優占する3地点の森林、東シベリア、モンゴル北部、日本の富士北麓の観測データを用いて、潜熱フラックスと環境因子の時間変化に関連する関係性についての地点比較を行った。 解析の手法として、離散ウェーブレット変換を用いたスペクトル解析を利用し、日内変動から年々変動までの複数の時間スケールにおいて解析を行った。環境因子が蒸発散に与える影響は、解析対象とする時間スケールにより異なるためである。本研究では、環境因子として、土壌水分量、短波放射量、気温、大気飽差を使用し、それぞれ蒸発散量との共変動性を調査した。  結果として、蒸発散量と環境因子の共変動性のうち、3地点の違いがもっとも明瞭だったのは土壌水分量であった。土壌水分量では、スケールごとの相関の強弱、正負の傾向がそれぞれ異なっており、東シベリアでは全スケールで正の相関、他の2地点では季節内変動以下の時間スケールで負の相関を示した。土壌水分量は降雨による急激な上昇の後、下方浸透によって減少するが、潜熱フラックスは降雨後に上昇するため、負の相関が生じたと考えられる。気温、大気飽差を比較すると、大気飽差のみ季節変動レベルでの共変動性に地点間の違いが見られた。大気飽差は気温と水蒸気量の影響を受けるため、その地点における水蒸気量の違いが反映されたと考えられる。 蒸発散量の変動特性の地域間での違いについて、地点ごとに強い共変動性を持つ時間スケールは異なっていた。季節変動レベルの時間スケールでは東シベリアとモンゴルで共変動性が強く、日内変動レベルでは富士北麓において共変動性が強い。また、地域ごとに蒸発散量との共変動性が大きく異なる土壌水分量、大気飽差はいずれも各地の水分状態を表す要素であった。そのため、その森林の大気中、地中の両方における水分状態の違いが、蒸発散特性が地域ごとに変化する原因となると考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680688637824
  • NII論文ID
    130005491969
  • DOI
    10.11520/jshwr.28.0_100075
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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