スギ・ヒノキ人工林における蒸発散量の間伐による変化について
書誌事項
- タイトル別名
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- Evapotranspiration change due to thinning in Chamaecyparis obtusa and Cryptomeria japonica forest.
説明
森林に降る雨のうち、蒸発散によって大気中に失われる量は降水量のうちの約半分を占め、残りが水資源量となるため、間伐のような人工林管理による森林の蒸発散の量的・質的変化の定量化は、水資源確保のために重要である。しかし、日本のように夏に降水量が多くまた可能蒸発量よりも雨が多い地域では、蒸発散の各構成要素を併せて観測し評価した例は少ない。さらに、間伐による樹冠遮断量への影響は多くの報告があるものの、間伐による蒸散量や林床面蒸発への影響を調べた例は少ない。そこで本研究では、森林蒸発散量を構成する各要素 (遮断蒸発、蒸散、林床面蒸発) をそれぞれ観測して求め、各要素が蒸発散量のどの程度を占めているのかについて調べた。また、観測期間中に間伐を行い、間伐前後の蒸発散量の変化を明らかにした。 本研究は福岡県飯塚市弥山試験流域で行った。本流域では2010年より観測が開始され、2011年1~3月に、本数で50%の強度の点状間伐が行われた。今回の解析には、間伐前 (2011年1~12月)、間伐後 (2012年4~2013年3月) のそれぞれ1年間を用いた。 遮断プロットには、樹冠通過雨量の計測のための雨量計19個と、4-5本の木を対象とした樹幹流下量測定用のバケツを設置した。遮断蒸発量は、降水量からこれらを差し引いて算出した。蒸散プロットでは、グラニエ法に基づく樹液流計測を行い、得られた平均樹液流速と、辺材面積とを掛けることで、林分蒸散量を求めた。林床面蒸発は2013年にスギ・ヒノキの各蒸散プロットにライシメーターを6台ずつ設置して計測し、日林床面蒸発量と林内日射量との関係を求め、2011年、2012年の林床面蒸発量をそれぞれ推定した。 間伐後、樹冠通過雨量は間伐後増大し、樹幹流下雨量は林分内の本数が減少したために減少した。間伐前の樹幹通過雨率はスギ、ヒノキそれぞれ67%、64%であったが、間伐後は73%、72%に増加していた。樹幹流が生じる最小雨量は間伐後に大きくなる傾向が見られたが、樹幹流率は約4%減少した。間伐前の樹冠遮断率はスギ林分、ヒノキ林分でそれぞれ27%、26%であったが、間伐後、24%、21%に減少し、スギに比べるとヒノキのほうでわずかに減少率が大きかった。 日林分蒸散量は間伐後に減少しており、その減少率は、飽差が1kPaの時、スギで31.6 %、ヒノキで48.2 %であった。林分あたりの総辺材面積(幹断面のうち、水分通道を担う部分の面積の総和)は、間伐によって34.2 % と44.5 %減少していた。すなわち、間伐後、環境の変化にも関わらず樹木蒸散は変化せず、林分蒸散量は本数減少分だけ減少したことになり、この傾向は既存の計測例と合致した(Komatsu et al 2013)。 間伐後、LAIが減少したことに伴い、平均気温、平均飽差、林内日射量はスギ・ヒノキどちらも増加した。観測による日林床面蒸発量は林内日射と良い相関を示した。間伐前後の値を得られた式から推定したところ、間伐前は41mm、間伐後は344mmとなり、間伐後約8倍にまで増加することが示唆された。 上記の結果から、年間の蒸発散量を推定した。2011年はスギ・ヒノキどちらにおいても、蒸発散量のうち、遮断蒸発量が半分以上を占めており、林床面蒸発量は5%以下であった。間伐後は蒸散量、遮断蒸発量が減少したが林床面蒸発量が大きく増加したため、総量は間伐後で増加した。しかし、可能蒸発量の年変動や降水量の年変動と比べると比較的小さな変化であったため、これらを含めて評価する必要がある。
収録刊行物
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- 水文・水資源学会研究発表会要旨集
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水文・水資源学会研究発表会要旨集 27 (0), 100104-, 2014
水文・水資源学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680688951296
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- NII論文ID
- 130005482020
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可