ラマンスペクトルの圧力依存性からみた高圧下での水の構造変化

DOI
  • 岡田 卓
    東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設
  • 小松 一生
    東北大学大学院理学研究科地学専攻
  • 日野原 邦彦
    東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設
  • 川本 竜彦
    京都大学大学院理学研究科地球熱学研究施設
  • 鍵 裕之
    東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設

書誌事項

タイトル別名
  • Raman spectra of liquid H<SUB>2</SUB>O at high pressures and its implication to structural change

抄録

はじめに<br>  マントル鉱物と共存する際の水の性質(物質溶解量や濡れ角など)は圧力に伴って変化することが知られている。これは水そのものの化学構造が変化するために引き起こされている可能性が考えられる。今回我々は高圧下で水のラマン散乱スペクトルを測定することによって、化学構造変化の検出を試みた。<br> 実験<br>  高圧発生には上下にサファイア製光学窓を持つステンレス製高圧セルを使用した。試料及び圧力媒体は純水で、ハンドポンプによってステンレス製パイプを通りセル内に導入、加圧される。圧力はブルトン管圧力計によって、温度はセル中心部に導入されたクロメル-アルメル熱電対によって測定された。現在のシステムでは最大圧力0.40GPaまで加圧可能である。<br>  ラマン散乱スペクトルは、Ar+イオンレーザー(出力50mW)を、20倍の長作動距離対物レンズ及び高圧セルのサファイア窓を通して試料に集光・照射し、散乱光を回折格子によって分光させ、CCDカメラを用いて検出した。レイリー散乱はノッチフィルターによって除去した。測定波数域は2766-3831cm-1のO-H伸縮振動域であり、波数校正には標準物質としてナフタレン(3056.4cm-1)及びブルーサイト(3650cm-1)のラマン散乱ピークを用いた。波数分解能は約1.5cm-1である。室温下(22.8-23.8℃)および高温下(50.3-53.9℃)で0.05GPa毎に0.40GPaまで各圧力温度にて600秒間のラマンスペクトルを収集した。<br> 結果と考察<br>  3つのバンドからなるブロードな散乱スペクトルが得られた。初期値としてピークの本数・波数・強度を与え、波数・強度・幅を変化させ、最小二乗法により3本のガウシアンピーク(室温常圧では3229±2.1cm-1, 3431±1.5cm-1, 3599±2.4cm-1)に分離した。室温下での3229及び3431cm-1付近の2本のピーク波数は、圧力増加に伴い系統的に変化した。圧力増加に伴ってはじめ高波数側へシフトし、約0.20GPaを頂点としてより高圧では低波数側へシフトした。約50℃でのピーク波数はほとんど変化せず頂点も認められなかった。<br>  水の粘性率は、圧力増加に伴い減少し2.2℃では約0.15GPaで最小値を示し、その後増加していくという液体としては例外的な性質を持つことが知られている。この最小値は温度上昇につれて低圧側へずれ、30℃で消失し通常の液体と同じく粘性率は圧力に比例して大きくなっていく(Bett and Cappi, 1965; Horne and Johnson, 1966)。この現象の解釈として、室温では約0.15GPaまでは加圧による体積収縮過程で水分子間の水素結合が弱くなるか又は切断されるため粘性率が減少するが、その後は自由体積をつぶすことによって収縮が進行し粘性率が増加する、一方高温で単純増加するのは水素結合が既に減少しているためと考えられている。<br>  我々の得たラマンピークの圧力増加に伴うシフトは、高波数側へのシフトは水素結合力が弱まっていることを示し、低波数側へのシフトは強まっていることを示すと考えると、粘性率の圧力変化とほぼ調和的である。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680708836864
  • NII論文ID
    130007039984
  • DOI
    10.14824/kobutsu.2003.0.20.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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