天然ダイヤモンドの包有物から探るダイヤモンド生成環境

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  • Miro-inclusions in natural diamonds and their genetic information.

抄録

鉱物に含まれる包有物はその生成環境に貴重な情報をもたらしうる。天然ダイヤモンドの包有物は、鉱物包有物のほかに原子レベルで含まれる不純物、流体包有物も含めて議論すべきである。本講演ではそれぞれのカテゴリーについて最近の研究の動向などをレビューしたい。<br> (1)鉱物包有物<br>  天然ダイヤモンドは多くの場合マントル起源の包有物を含み、ペリドタイト型の包有物(かんらん石、斜方輝石、クロムに富む苦礬ザクロ石など)を持つダイヤモンド、エクロジャイト型の包有物(オンファス輝石、カルシウムに富む苦礬ザクロ石など)を持つダイヤモンドに分類される。後述するようにこれらのグループ分けはダイヤモンドを構成する炭素の同位体組成と相関を持つ。しかし、多結晶ダイヤモンドのカルボナド(carbonado)はこれらのマントル関連鉱物は含まず、地殻の鉱物や有機物などを包有物として取り込んでいる。カルボナドはマントルの高温高圧条件では生成しなかったのではないかと考える研究者が少なからずいることはそのためである。 <br> (2)原子レベルで含まれる不純物<br>  周期律表で炭素原子の隣に位置する窒素は、ダイヤモンドともっとも親和性の高い元素である。ダイヤモンドの結晶構造中に含まれる最も存在度(濃度)の高い不純物は窒素である。遷移金属系の触媒を用いて得られる高圧合成ダイヤモンドが黄色を帯びるのは、原料物質(グラファイト)に吸着している窒素が、ダイヤモンドの結晶構造の中で炭素原子を窒素原子で置換する孤立型窒素として構造中に取り込まれる(type Ib)ためである。天然ダイヤモンドでは地質学的な時間をかけてアニールされるため、孤立型の窒素原子は拡散によって集結し、無色となっていく(type Ia)。これらの不純物窒素の包有形態は赤外吸収スペクトルから判別ができ、ダイヤモンドの熱履歴を考察する上で重要な情報となる。<br>  ところでキンバーライト、カーボナタイトの炭素同位体組成は良く似ており、d13Cで-7‰から-5‰に分布の中心があり、分布の範囲は0‰から-10‰程度で比較的狭い(d13Cは標準物質からの同位体比のずれを示す指標で、マイナスになるほど13Cが少なくなることを表す)。これらのマグマが発生したときに揮発性物質である二酸化炭素はひじょうに大きな分配係数をもって選択的にメルト側に溶け込むので、マントルの平均的な炭素の同位体組成を反映していると考えてよい。これとは対照的に天然ダイヤモンド炭素同位体組成の分布は30‰以上も幅を持つ。ペリドタイト型の包有物を持つダイヤモンドの炭素同位体組成は分布の範囲が狭く、キンバライトやカーボナタイトと同様に平均組成が-6‰で分布範囲は-1‰から-10‰程度で、典型的な上部マントルの炭素同位体組成を反映しているようである。一方、エクロジャイト型のインクルージョンをもつダイヤモンドは、-34‰から+3‰の広い範囲に炭素同位体が分布する。このように包有物の鉱物組成によって炭素同位体組成が全く異なる理由としては、エクロジャイト型のダイヤモンドについては沈みこみにともなって有機物起源の炭素が原料の一部となった、という説がある。しかしこの説は窒素同位体組成の結果と矛盾する。沈み込み説に対してエクロジャイト型ダイヤモンドの炭素は高温における同位体分別を受けているという説、マントルそのものが炭素同位体からみて不均一であるという説がある。<br> (3)流体包有物<br>  天然ダイヤモンドには水、二酸化炭素などの流体相が包有物として含まれる。最近になって、顕微分光の手法によって鉱物包有物の残留圧力をその場測定する研究がいくつか発表されている。包有物から深さ(圧力)情報を得る新しい動向である。天然ダイヤモンドから固体二酸化炭素や氷の高圧相が見いだされており、結晶内部に高圧が残っていることを示す。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680708927360
  • NII論文ID
    130007040037
  • DOI
    10.14824/kobutsu.2003.0.157.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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