メタ・コミュニケーションとしてのメディア翻訳―国際ニュースにおける引用と翻訳行為の不可視性―

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タイトル別名
  • Media Translation as Meta-Communication: Quotes in News Reports and Invisibility of Translation Acts
  • メタ ・ コミュニケーション ト シテ ノ メディア ホンヤク : コクサイ ニュース ニ オケル インヨウ ト ホンヤク コウイ ノ フカシセイ

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抄録

<p>本稿は,国際ニュース報道における「引用」に着目し,引用とメディア翻訳の不可視性との関係を明らかにした上で,社会記号論系言語人類学の「出来事モデル」に依拠し,メタ・コミュニケーションとしてのメディア翻訳の多層的実践について事例分析を通し考究するものである.事例として取り上げたのは,1990年代に壮絶な民族紛争を繰り広げたボスニア・ヘルツェゴヴィナにおいて20年ぶりに行われた国勢調査に関するニュースである.従来,ニュースにおける引用の翻訳は,もとの発話の忠実な再現であり,異なる言語間の単なる意味の等価的伝達と考えられてきた.この前提がニュースの真正性を支えてもきた.分析の結果,引用箇所の翻訳においては,言語使用における「言われていること」のレヴェルには大きなシフトは見られなかった.それに対し「為されていること」,即ち言語使用者たちのアイデンティティやイデオロギーに関わる社会指標的意味のレヴェルにおいては相対的に大きなシフトが生じていた.このことは,メディア翻訳が単なる意味の等価的伝達ではなく,翻訳という出来事が生起する社会・文化・歴史的コンテクストに根差した複層的な実践であり,メタ・コミュニケーションであることを示唆する.さらに,メディア翻訳においては,引用に見られるようにそれ自体が言及指示的に非明示的,したがって社会指標的,メタ語用的要素の転移にこそ困難があることを示すものである.</p>

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