「羅生門」論 : 老婆の視座から

書誌事項

タイトル別名
  • Rereading Rashomon : From the Old Woman's Viewpoint
  • ラショウモン ロン ロウバ ノ シザ カラ

この論文をさがす

抄録

「羅生門」の<読み>において、私達は、現実に身ぐるみを剥がれた老婆への想像力をこれまで働かせてこなかった。それどころか、人間はすべてエゴ的であるという原罪論のお墨付きを与えることで、エゴ的行為への抑止力を損わせ、結果として、弱い立場にある友人を<いじめ>ることへの不感症症候群を作り出してきた。本拙論は、こうした反省に立っての「羅生門」論である。羅生門の空間は、老婆との出会いによる新しい倫理の生成する<場所>でもあった。しかし、「羅生門」の<場所>は、ついにそのような転機を生む空間として変換されることはなかった。下人は、<「仕方がなくする」<悪>は許される>という倫理を育てるほかない弱者の世界についに一度も降り立つことなく、むしろ、最底辺に生きる人々と共通の状況を抱えながら、そこで、「権力的、暴力的」に生き始めたからである。ところが、「羅生門」では、二人の<語り手>の併存によってこうした問題がすべて<空白化>され、隠蔽されてしまった。この欠点は、老婆への視点の喪失という形で「羅生門」論に現れて来る。

収録刊行物

  • 日本文学

    日本文学 45 (2), 29-41, 1996

    日本文学協会

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ