制度の中の「伝統」 : アメリカの養子縁組制度における「ハーナイ」の機能に関する一考(<特集>「先住民性」再考試論-ローカルな展開と「関係的」理解)

書誌事項

タイトル別名
  • A Hawaiian Tradition within a Western Institution : A Study of the Hanai System of Adoption within American Adoption(<Special Theme>Indigeneity in Daily Life: Redefining 'Indigeneity')
  • 制度の中の「伝統」 : アメリカの養子縁組制度における「ハーナイ」の機能に関する一考
  • セイド ノ ナカ ノ 「 デントウ 」 : アメリカ ノ ヨウシ エングミ セイド ニ オケル 「 ハーナイ 」 ノ キノウ ニ カンスル イッコウ

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抄録

現代の先住ハワイ人社会では、伝統的な養取慣行であるハーナイが、アメリカ政府主導の養子縁組制度の枠内で行われている状況がある。つまり、伝統的な養取の枠組みを失ってもなお、ハワイにおける養取は「ハーナイ」の名のもとに行われ、伝統的な価値体系と結び付けられ現代に続いているのである。本稿では、西洋由来の制度のなかで新たに構築される「伝統的概念」に焦点をあて、それを通じていかにハワイの伝統的価値体系さらには「先住民性」が新たに作り上げられているかを、現地での聞き取り調査で得られた資料をもとに考察する。ハーナイとは、家族が他夫婦の子どもを養取し、一族の成員として養育する慣行のことである。主に一族の系譜の存続や系譜に関わる知識を伝承するために行われていたハーナイであるが、その機能は多岐にわたり、養家と生家の精神的、経済的、身体的な相互扶助を維持し強化してきた。1970年代になると、アメリカ本土で整備された養取制度がハワイでも一般的になるが、制度として導入された養子縁組制度では養家と生家の関係は切り離されてしまった。しかし、先住ハワイ人コミュニティで行われた調査資料からは、現在行われている養取が連邦政府の整えた枠組みであるにもかかわらず、それを伝統的な価値に基づく「ハーナイ」なるものとして新たに構築する傾向にあることが分かる。また、現代の「ハーナイ」は、アメリカ本土の血という要素のみに基づく民族概念によらない「先住民性」を表す概念となり、当事者同士の関係を基に先住ハワイ人同士の関係性を構築し得るツールであり、先住ハワイ人社会におけるより広範な関係を包括するシステムとして働いていることも明らかになった。さらに強調すべきは、伝統的なハーナイが限定された親族内あるいは特定のチーフ間の機能だったのに対して、先住ハワイ人社会全体の中で機能するセーフティーネットとして働いていることである。本稿で提示する事例は、「先住民性」が、新規導入された概念の枠組みの中で形を変えて新たに構築される状況を示す例である。

収録刊行物

  • 文化人類学

    文化人類学 79 (2), 104-123, 2014

    日本文化人類学会

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