北インド・チベット系社会における選挙と親族 : スピティ渓谷における親族関係ニリンの事例から

書誌事項

タイトル別名
  • The Modern Election System and Indigenous Kinship Relationships : The Case of Nirin in a Tibetan Society in North India
  • キタインド ・ チベットケイ シャカイ ニ オケル センキョ ト シンゾク : スピティ ケイコク ニ オケル シンゾク カンケイ ニリン ノ ジレイ カラ

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抄録

インドは「世界最大の民主主義国家」といわれる。しかし実際には、それは理念通りに定着しているわけではない。近代的な政治制度は土着の親族などの制度に影響を与えつつ依拠することで成立することが可能となっている。本論では近代的な制度を支える過程で変容を遂げている親族関係に注目する。そして、北インド・チベット系社会スピティにおいて、親族が、比較的新しく導入された選挙の影響を受けてどのように意味づけされ、再構成されているのかを明らかにすることを目指す。ここでいう親族とは親族全般ではなく、日常生活を支える互助的な親族関係を指す。従来のチベット系社会の親族研究で重視されてきた父系出自の観念とは別に、ニリンと呼ばれる親族範疇が日常生活を支えるものとして住民に重視されてきた。ニリンとは個人の親密な血縁、姻戚関係の認識の範囲である。それと同時に、選挙活動において、このニリンは訴求力をもつものとして政党員に資源として活用される。特に、票を獲得しようと試みる政党員によって普段ニリンとは呼ばれない人までニリンに含められ、一時的なニリンの関係がつくりだされる。そのため、選挙ではその枠が拡大、縮小される。その過程で、人によっては複数のニリンに含められ、複数の立候補者に投票するよう要請され、投票行動の決定困難に陥る状況も生じている。そこでは親族の道義性と個人の戦術が入り乱れ、決定困難となっている。また、中には政治的利益のために団体化したニリンも存在する。つまり、政治的な関係が日常化したのである。ただし、政治的利益を得るための団体化は個人の選択を制限することにもなり、矛盾が存在する。ここには、親族研究において議論されてきた道義性と戦術をめぐるより複雑な問題が示されている。

収録刊行物

  • 文化人類学

    文化人類学 79 (3), 241-263, 2014

    日本文化人類学会

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