差異を身につける : 糖尿病薬の使用にみる人間と科学技術の相関性

書誌事項

タイトル別名
  • Embodying Difference : The Pharmaceutical Mediation of Human and Scientific Values in Diabetes Care
  • サイ オ ミニツケル トウニョウビョウヤク ノ シヨウ ニ ミル ニンゲン ト カガク ギジュツ ノ ソウカンセイ

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抄録

差異と類似の評価は、現代医療の現場で極めて重要な役割を果たしている。医療技術の選択肢をめぐる、年々に増大している多様化と共に、身体を生きる患者の生活における異質性も注目の的になりつつある。こうした科学知識と文化における複数の差異を媒介するのは、M.ストラザーンによれば、身体を「公的表面」(public surface)として生み出す医療のさまざまな人工物である。本論文で取り上げる糖尿病薬は、このような科学と文化の多様性を動員する人工物のひとつである。従来の人類学者はいろいろな角度から医療の多元性を描いてきた。西洋医学と異なる医療体系を記述した数多くの民族誌から、患者と医療者の種々の解釈への関心や、医学知見としての疾病と文化現象としての病の対立まで、生物医療を囲む多様性の存在については、十分に分析されてきた。しかし差異は体系、信念、あるいは解釈だけではない。差異は実践は要素でもある。本稿では、鈴蘭病院(仮名)という糖尿病センターで行われる薬物療法の実践を人類学の眼鏡を通してみていくことにより、薬の、科学と文化と身体のそれぞれのレベルにおける差異化を結びつける役割について検討する。ここでは(1)日本における内分泌学のモデルと、(2)鈴蘭病院と呼ぶ糖尿病センターの組織と、(3)様々な薬の吸収に伴う病気の身体知の3つの事例をもとに、複雑化した社会における差異の技術的な媒介を示してみる。さらに、医療実践の「中」で、いかに文化と自然における違いが同時に構成しあいつつあるかを明らかにした上で、多元性の人類学における主導的な論考を批判しよう。

収録刊行物

  • 文化人類学

    文化人類学 73 (1), 70-92, 2008

    日本文化人類学会

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