民族認識の変容における親密圏の役割
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- 康 陽球
- 京都大学
書誌事項
- タイトル別名
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- The Role of the Intimate Realm on the Transformation of Ethnic Perception
- 在日朝鮮人家族のなかの日本人妻たち
- Japanese Wives in Zainichi Korean Families
抄録
近年のエスニシティ研究において、国家やアクティビズム、メディアによって創出される言説や表象が、「エスニックな現実」の構成と変容において重要な役割を果たすことが指摘されてきた。とくに在日朝鮮人研究では、在日朝鮮人の民族的現実の変容における公共圏の役割が強調され、親密圏は社会や公共圏に従属的な領域であるととらえられてきた。そのため、在日朝鮮人研究をはじめとした近年のエスニシティ研究において、日常的な生活空間は、人々のエスニックな現実に変容をもたらす重要な拠点になるとみなされてこなかった。このような議論に対し本論文では、親密圏の政治性を主張する政治学者、齋藤純一の議論に依拠し、エスニックな現実の変容に対して日常的な共在関係が果たす役割を検討する。そのために本論文では、関西地方在住の、在日朝鮮人二世~四世と結婚した日本人女性14名(20代~60代)に行ったインタビューのなかから、公的な言説に親和的な民族認識をもっていた二人の日本人妻の事例を取り上げる。1970年代以降、日本の社会運動のなかで、在日朝鮮人の社会的排除に対する日本人の責任が問われてきた。二人の日本人妻はともに、「日本人の責任」を認識し、その認識を、在日朝鮮人である夫や夫の家族との関係のなかで実践してきた。多くのインフォーマントが、嫁や母として求められる役割を遂行することで、在日朝鮮人の家族やネットワークに包摂され、民族的差異に関する意識を希薄化させていたのに対し、二人にとって嫁や母の役割を遂行することは、在日朝鮮人と日本人の境界を家庭内で再生産することにつながっていた。しかし、このような二人の民族認識は徐々に変化する。本論文では、二人の民族認識の変容に、親密圏における具体的な他者との間に築かれる、共感や受容の関係が関わっていることを論じ、民族認識の変容における親密圏の重要性を主張する。
収録刊行物
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- 文化人類学
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文化人類学 81 (4), 586-603, 2017
日本文化人類学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680781775232
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- NII論文ID
- 130006394684
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- ISSN
- 24240516
- 13490648
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可