哲学から体験へ : 近角常観の宗教思想

書誌事項

タイトル別名
  • From Philosophy to Experience : The Religious Thought of Chikazumi Jokan
  • テツガク カラ タイケン エ チカズミ ジョウカン ノ シュウキョウ シソウ

この論文をさがす

抄録

哲学から体験へ。明治三〇年代、近代真宗の思想界において、そう総括すべき大きな転換が起こった。本論は、その転換期が生んだ思想の意義を、近角常観(一八七〇-一九四一)という真宗大谷派僧侶の思想と実践の検討により再考する。近角は学生時代、哲学研究に執心したが、その後は哲学を放棄し、個々人の体験を重視する宗教家へと自己形成を遂げた。だが、自らの救済体験の意義を、仏教史を貫く普遍的な要素によって根拠づけるという彼の方法は、その転身の前後を通して一貫していた。近角は、親鸞や釈尊など、真宗仏教史における至高存在の体験に、自らの体験を重ねて語るという言語実践を遂行したが、こうした体験の語りを、自己の信徒たちにも行わせた。近角の体験談を中心として、一つの体験談がまた別の体験談を生み出す、という構造がそこにはあった。明治三〇年代の真宗思想に起きた転換は、近角によって、独自の体験の言語空間の創出へとつながったのである。

収録刊行物

  • 宗教研究

    宗教研究 84 (1), 75-100, 2010

    日本宗教学会

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ