クルーズ船観光の人類学に向けて : 島国ドミニカとクルーズ船観光の関係を例に(<特集>観光の人類学 : 再考と展望)

書誌事項

タイトル別名
  • Toward the Anthropology of Cruiseship Tourism : The Case of Dominica(<Special Theme>Anthropology of Tourism : Review and Perspective)
  • クルーズ船観光の人類学に向けて--島国ドミニカとクルーズ船観光の関係を例に
  • クルーズセン カンコウ ノ ジンルイガク ニ ムケテ シマグニ ドミニカ ト クルーズセン カンコウ ノ カンケイ オ レイ ニ

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抄録

本稿の目的は、観光人類学のなかでもほとんど手が付けられることがなかったクルーズ船の人類学的研究の可能性を提示することにある。観光現象に関するこれまでの人類学的研究のほとんどは、陸上に基盤を置く観光に関するものであったと言っても過言ではない。カリブ海地域はしばしば最後の楽園と表現されるように、太陽、海、白い砂浜が欧米から多くの観光客を引き付ける、観光客のメッカである。世界のクルーズ船による観光のおおよそ5割がこの海で展開される。一方、オールインクルーシヴ・リゾート地がこの地域に多く開発されてきた。両者はいくつもの点で類似している。これらの空間は外部世界と遮断され、料金を支払ったものだけがその内で楽しめる。客の多くは、この閉じられた空間そのものを楽しみに来る。そこでは非日常的な世界が実現され、一時的な地位の転換やリミノイド的な状況を体験できる。この空間では、ゲストの客とホストからなる一時的な「短命社会」と彼らの文化が形成される。独立国の国民である現地人に対して、これらの空間はあたかもふたたび植民地時代に戻ったかのような印象を与える。白い砂浜を欠く自然を唯一に近い観光資源とし、エコツーリズムを推進してきたドミニカには、エコツアーを売り物の一つにするクルーズ船の寄港が急増している。そのために、エコツーリズムと矛盾するマスツーリズム化の現象が生じている。その結果、多くの問題が生じている。クルーズ船は、観光研究や人類学にとって重要な研究上のフロンティアとなりえる。

収録刊行物

  • 民族學研究

    民族學研究 66 (1), 106-121, 2001

    日本文化人類学会

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