サウジアラビアと日本の技術協力 : 戦略的ヴィジョン

  • Bukhary Essam
    Graduate School of Asia Pacific Studies, Waseda University:Manager of Culture & Media Division, Arabic Islamic Institute in Tokyo

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  • Saudi-Japanese Technological Cooperation : Strategic Vision

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抄録

本論文は、サウジアラビアと日本の戦略的なパートナーシップという枠組みの中で、両国の技術協力の現状と今後のあり方についての一見解を提示している。経済を中心に、サウジと日本の関係は非常に深いものとなっている。まず、サウジと諸外国における貿易では、日本は第2位の相手国である。とりわけ石油については、日本への最大の供給国はサウジとなっている。また、2005年の段階では、諸外国の中でも最大の直接投資国となっていた。同時に、日本はODA(政府開発援助)予算に基づくJICA(国際協力機構)を通じて、サウジに対して最も活発に技術支援を行ってきたのである。しかしながら、近年の石油価格の高騰とサウジの個人所得の増大により、2007年からサウジはOECD(経済協力開発機構)の下部機関であるDAC(開発援助委員会)が作成するリスト、すなわち被援助国リストから卒業する予定である。それはJICAがプロジェクトを終えることを意味しており、今後の両国間の技術協力の関係強化に関して、新しいアプローチを考案する必要が生じているのである。まず、サウジにおける経済発展の諸問題を振り返りつつ、石油に依存している経済を多様化する努力と、人口の55パーセントを占める若年層に向けた雇用創出の努力を支える恒常的な要因として、戦略の重要性を論じている。同時に、高等・技術教育制度の改善のために国際的協力の重要性を指摘する。次に、サウジにおけるJICAのプロジェクトを分析し、技術協力の現状を明らかにする。1970年代、それは開発調査に比重が置かれていたの対して、90年代には、技術訓練や職業研修へ比重が移されるようになった。最近は、サウジ側の意向もあって、プロジェクトの種類とその受益者の多様化が図られてきている。また、SJAHI(サウジ日本自動車高等研修所)およびHIPF(プラスチック加工高等研修所)の例に明らかなように、両国間が技術協力して実施した共同プロジェクトにおいて、両政府の支援が重要な役割を果たしたことが本研究で明らかとなった。一方、155力国におけるJICAの予算やプロジェクト数の統計分析によると、アジアや南米に比べて、中東は必ずしも最優先されている地域ではない。さらに、中東諸国の中で、サウジはJICAの予算と実施中のプロジェクト数で見れば第6位だが、石油輸出国の中では第1位であった。これに関して、関係者へのインタビューから、JICAは貧困国を重視してきており、サウジは豊かな国と見なされたことも、この結果を招いたということがわかった。さらに、サウジ側と所要経費を共同で負担するのみならず、将来的にはサウジ側の全額負担による技術協力の可能性も検討されてきていることが明らかになった。視点を改めて、両国間における技術協力の将来的な課題を取り上げている。そこでは、JCCME(中東協力センター)指導のもとで、中東諸国と日本の間の文化的交流や人材育成を推進するジャパンプログラムという新しい形態の事業が開始された。たしかに、2006年にはサウジを始め、その他の湾岸諸国も当プログラムがもたらした最大の恩恵を享受できた。しかしながら、当センターの予算とスタッフの制約もあり、JICAのプロジェクトの代替として考えるのは困難であることも判明した。また、両国の大学による学術協力にも光を当てている。今後、両国の大学間における学術協力や学生交流促進のために、インターネットによる両国間の講義の実施や、サウジの諸大学における英語による人文科学やイスラーム学の授業、また、日本の諸大学においても同じく英語による情報技術など工学関係の授業を実施することなどが提案できるだろう。結論として、サウジと日本の戦略的パートナーシップは、サウジから日本への安定的な石油の供給と、日本からサウジへの高水準の人材開発と技術移転をもたらすものとして理解されるだろう。それは、両国で持続的な経済発展を達成するためである。それは「石油と技術の交換」と換言できるだろう。つまり、サウジが求めているのは援助ではなく、パートナーシップと相互利益に基づく技術協力であるということを、日本側ははっきり認識することが重要であることを確信している。その一方で、サウジは最大の石油埋蔵量を誇り、世界で唯一の石油生産調整能力を持つ国である。日本は世界第2の経済大国であり、同時に技術帝国である。双方はそれぞれの状況を鑑みて、この戦略的なパートナーシップを成功に導くことができると言えよう。

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