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抄録

「食育」という言葉は,これまで用いる人によって意味合いが様々で,統一的な定義はなされていない.<BR>平成17年6月に制定された「食育基本法」においても,「食育」の明確な定義はなされていないが,前文及び第一章総則の第一条目的及び第二条から第八条までに示された基本理念から,次のように表すことができるだろう.<BR>「食育」とは,食に関する知識と食を選択する力を習得し,健全な食生活を実践することができる人間を育てるための食に関する取組み・教育の総称であり,広く国民の啓発活動のことをいう.また,「食育」の範囲は,食に関する感謝の念や理解,伝統的な食文化,環境と調和した生産等への配慮,農山漁村の活性化と食料自給率の向上への貢献,食品の安全性の確保等を含む広範囲なものであり,食料生産から消費に至るまでの様々な体験活動を行うこととしている.<BR>これまで「食育」は,どのように用いられてきたのだろうか.<BR>「食育」という言葉がはじめて用いられたのは,明治時代だとされている.1)明治31年,石塚左玄は,食養生の指南書「通俗食物養生法」の中で「食育」を「一定の食養生法により子どもの心身を育むこと」として用いている.また,明治36年,村井弦斎は,小説「食道楽」の中で「食育」を「食物についての知識を与えることによって子どもの心身を育むこと」として用いている.両者とも体育や知育等を支える基盤としての「食育」の重要性を主張しているが,一般に定着するには至らなかった.<BR>その後,1990年代以降になると,食に関する取組みの重要性を,「食育」の言葉を用いて提唱する例がみられるようになり,砂田登志子は,欧米で生活習慣病予防の見地から子どもを対象に行われている「健康的な食習慣を身に付けるための教育」を「食育」の訳語を用いて紹介し普及に努めた1).また,服部幸應は,「食育のすすめ」の中で,「食育」を「料理や食体験を通して,主に幼稚園児や小・中学生(保護者を含めて)を対象に「何を食べるか」「どのように食べるのか」を教え,食に関する興味を抱かせること」とし,「食育の3つの柱は,安全な食べ物を知り選ぶ能力,しつけやマナー,食料・農業・環境問題」と提唱した2).<BR>行政において,初めて「食育」の言葉が明記されたのは,平成10年に旧厚生省の「子どもの健康づくりと食育推進・啓発事業」として報告された「乳幼児からの健康づくりと食育推進のための基礎調査報告書」である.この報告書では,「食育」とは「食べることの意味を理解し,一人一人が自立的に食生活を営む力を育てることや,それを実現しやすい食環境づくり」と定義している.<BR>また,農林水産省では,「BSE問題に関する調査検討委員会報告」(平成14年4月)において,今後の食品安全行政のあり方の重要な個別課題の一つとして,食に関する教育いわゆる「食育」の必要性を明記した.「食育」について,「栄養,調理,食品,食生活など食に関する広範な学術領域のすべてに及ぶが,行政的には,それらの構成要素の一つ又は複数をテーマとした啓発行動を総体的にとらえる用語として用いる」と定義し,「食育」は,「国民の健康と安全の確保を目的として推進するものであることから,対象者を子どもに限定するものではなく,広く国民全体とすることを基本とする」としている.<BR>さらに,平成14年11月には,文部科学省,厚生労働省,農林水産省の三省連携による食育推進連絡会議が設置され,「食育」とは,「食に関する知識と食を選択する力を習得し,健全な食生活を営む力を育てること」としている.<BR>足立己幸,衛藤久美は,栄養学雑誌3)において,「食育」の概念や内容,目標等を分析し,検討課題を提案している.その中で,「食育」とは,「人々が人間らしく生きる・生活する資源としての食,同時に健康の資源でもある食を営む力を育てること,そしてこれらを実現可能な社会・環境を育てること」であるとしている.

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