蒸解漂白の脱リグニン化学

  • 横山 朝哉
    東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 木材化学研究室

書誌事項

タイトル別名
  • Chemistry of Delignification in Pulping and Bleaching
  • ジョウカイ ヒョウハク ノ ダツリグニン カガク

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抄録

本稿ではまず,蒸解・漂白過程における主要反応について記載し,続いて注目すべき反応および近年の筆者の研究室における成果について,紹介する。<BR>蒸解過程で脱リグニンを引き起こす主要反応はβ―O―4結合の開裂であるが,ソーダ蒸解に対するクラフト蒸解の優位性は,フェノール性β―O―4部位に生成するキノンメチド構造への水硫化物イオンの付加とこれに続く反応によって説明されることが知られている。脱リグニン抵抗性を引き起こすと信じられている縮合反応であるが,化学反応的にはα―位側鎖での縮合反応によって,隣接位のβ―O―4結合の開裂が促進される場合がある。近年における筆者の研究室の成果によれば,β―O―4結合の開裂反応は,リグニンの芳香核構造とβ―O―4結合側鎖の立体構造によって影響を受けることが示唆され,実際にシリンギル核が多いリグニンはβ―O―4結合側鎖立体構造にエリスロ型が多く,そして,蒸解性が高かった。さらに,これらの関係がモデル化合物を用いた実験によって,定量的に示された。<BR>従来から,酸素漂白過程では,酸素分子がリグニン中のフェノール性部位のみと反応可能であるため,この部位のみが分解されると考えられてきた。しかし,クラフトリグニンまたはフェノール性水酸基を持つ二量体リグニンモデル化合物の酸素漂白条件下における処理では,これらの酸素消費量が非常に大きく,非フェノール性芳香核に対する酸化の進行が示唆された。そこで,β―O―4結合した非フェノール性芳香核がフェノール性に変換されるかどうかについて,この解析を目的として特別にデザインされた二量体モデル化合物を用いて検討したところ,非フェノール性芳香核のフェノール性化合物への変換が確認された。

収録刊行物

  • 紙パ技協誌

    紙パ技協誌 66 (10), 1053-1058, 2012

    紙パルプ技術協会

参考文献 (19)*注記

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