山梨県北杜市藪ノ湯における大武川渓岸の大規模地すべりと河道閉塞

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タイトル別名
  • Large-scale landslide feature and channel obstruction along the Omu River, near Yabunoyu Spa, Southern Japanese Alps

抄録

<p>はじめに 地すべりの地形・地質状況および数値年代に関する情報は,湿潤変動帯山地の地形発達を検討するうえで重要である.日本アルプスとその周辺では様々な手法による地すべりの編年が進展しているが,未だ十分ではない.本発表では,鳳凰三山東麓の北杜市藪ノ湯付近で見いだされた大規模地すべりと,それによる釜無川水系大武川の河道閉塞を報告する.</p><p>地域の概要 大武川は甲斐駒ヶ岳から発する急流河川である.藪ノ湯付近まで深い谷を,それより下流には段丘化した扇状地を発達させる.藪ノ湯付近を糸魚川静岡構造線(ISTL)が縦断し,東側に中新世後期の砂岩・泥岩が,西側に中新世中期の花崗閃緑岩類と白亜紀後期の砂岩・頁岩が分布する.大坊断層などISTL活断層帯中南部区間も近接する.</p><p>地すべり地形 藪ノ湯(Yb)の南西1 km地点の大武川(Om)右岸には,標高1000 m前後に平坦面~緩斜面をもつ段丘面状の地形(Br)がある.Brの地表には高さ数10 m規模の低丘群が発達し,長径10 m超の巨大角礫(花崗閃緑岩)が散在する(地点01).Brの南には三角末端面状の急斜面が発達する.Brの大武川対岸には標高950 m前後に緩斜面をもつ段丘面状の地形(Bl)があり,花崗閃緑岩から成る巨礫サイズの角礫がマウンドを作る(地点02).また花崗閃緑岩や異地性の砂岩および頁岩からなる細礫-中礫サイズの亜円礫層と転石も確認される(地点03,04).以上の状況から,BrとBlはOm右岸で発生した地すべりの移動体で,本来一連だった可能性が高い.特に,河成作用で運搬・堆積したと思われる異地性の礫がBl上に分布することから,Omは一時堰き止められ,Bl西縁の水路から排水していた可能性がある.Br,Blと次に述べる堰き止め湖沼氾濫原堆積物の分布状況から判断して,原初地すべり移動体は面積1.5 km2程度だったと推定される.移動体の厚さを平均100 mとすると,移動体体積は1.5×107 m3規模である.本稿では,この地すべりを「藪ノ湯西大規模地すべり(Ybn)」と仮称する.</p><p>堰き止め湖沼氾濫原堆積物とその年代 Blの下流にOmと支流(Sn)の合流点があり,その周囲に標高850 m前後を上面とする段丘面状地形が認められる.地点05には埋没腐植土層を有する細・中礫層が,同06には泥炭質シルト層が分布し,地点07ではやや淘汰のよい大礫を主とする本流性の礫層が確認される.地点06で腐植質シルト1点を採取し,加速器分析研究所で測定した(前処理AAA法;半減期5570年;δ13C分別補正あり;OxCAL+IntCal13).結果は4106±27 14C BPで,その較正暦年と2σ確率分布は4811-4756(0.235)/4707-4667(0.110)/4655-4524(0.609)cal BPであった.地点05の埋没腐植土層の年代は本稿準備時点で測定中である.</p><p>解釈 現時点では湖沼氾濫原堆積物と推定される腐植質シルト1点の年代しか得られていないため確度は低いが,次の解釈が可能である.①Ybnが発生し,現在はBrとBlに分断した大規模地すべり移動体がOm本流と同左岸から流入する支谷を堰き止めた.②OmはBl西縁の水路から溢流した.③出口を塞がれた支谷では堰き止め湖沼氾濫原が生じ,腐植質シルト層や礫層が堆積した.④湖沼氾濫原堆積物の堆積年代は4800~4500 cal BPで,Ybnはこれよりやや先行して発生した可能性がある.⑤Ybnの誘因は判然としないが,ISTL活断層帯中南部区間で完新世中期の古地震が認定されており3),それとの関連を注視する必要がある.上記の解釈の妥当性を検討するには,今後Bl上の河成礫層の堆積年代を明らかにすべきである.すべり面や浅層地下地質の情報も必要である.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282752329112960
  • NII論文ID
    130007711037
  • DOI
    10.14866/ajg.2019a.0_81
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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