褐毛系牛肉のフードシステム

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  • Beef food system of Japanese brown cattle

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 和牛は4種類あるが,流通している牛肉は圧倒的に黒毛和種のものである。2018年度春季日本地理学会で筆者は,ブランド牛肉の消費者認知と価格イメージについて報告した。黒毛和種,とりわけ日本三大和牛は認知度が高く,しかも認知度が高くなるほど,等比級数的に価格イメージも高まる。つまり,牛肉消費にはブランド志向がみられ,その結果需要に偏りが生じ,非黒毛和種の産地は低迷することになった。</p><p>高知県の褐毛系和種の土佐あかうしも,飼養頭数は減少傾向にあった。ところが,近年そうした傾向は底を打ち,非黒毛和種牛肉の復活の兆しがみられる。そこで本報告では,土佐あかうしを事例として,産地がどのような販売戦略のもとで,マーケティング活動を行い,市場動向が変化しているかを明らかにすることを目的とする。</p><p></p><p>2.調査方法</p><p> まず,消費者は非黒毛和種の牛肉の食味が黒毛和種よりも劣っていると感じているかを検証する。そのため,褐毛和種(高知産),黒毛和種(宮崎産),F1種(北海道産国産牛)の3種類の牛肉(ロース焼肉用)を対象として,官能評価を実施した。パネルは東京農業大学の学部1年生および2年生36名である。7段階のカテゴリー尺度による採点法と順位法によるパネルの主観的(好み)のおいしさの評価を依頼した。</p><p>次に,土佐あかうしの中心的なプロモーターである高知県(畜産振興課)と生産者に,生産流通の状況に関する聞き取り調査を行うことで,課題に接近する。</p><p></p><p>3.消費者の牛肉評価</p><p> 最もおいしいと感じる種類は,黒毛和種の牛肉であった。これは一般に言われているとおりであるが,意外にも黒毛和種を選んだのは4割程度にとどまり,褐毛和種やこれらよりもはるかに安価なF1種の牛肉も健闘している。被験者には牛肉の種類が異なることは伝えたが,どれがどの品種かはわからない。したがって,情報を与えることによる心理的な影響を排除しており,味覚において黒毛和種が圧倒的優位にあるとは言いがたい結果となった。</p><p>褐毛和種の牛肉は赤身が多いため,焼肉にした場合焦げ茶色となり,ほかよりも食欲をそそるような色合いである。褐毛和種を最もおいしいと感じた被験者グループは,その点を高く評価しており,見た目が主観的なおいしさに影響を与えているものと考えられる。一方,黒毛和種やF1種では脂肪分が多いため,焼肉にした場合,白っぽくなる。その度合いによって,評価が分かれており,F1派はより白っぽくなる黒毛和種に高い評価を与えていない。</p><p>以上のことから,日本の消費者にはいわば「黒毛神話」がみられ,牛肉に対する消費者のイメージほど味の差はみられないことがわかった。したがって,そうしたイメージを打破することが非黒毛和種産地の販売戦略として重要だと考えられる。</p><p></p><p>4.土佐あかうしのブランド化</p><p> 高知県の褐毛系牛肉の価格は,2011年ごろから上昇に転じ,黒毛との価格差が縮小し,一部では褐毛のほうが黒毛を上回るほどになった。このような価格上昇は生産者を刺激し,生産頭数の増加につながった。</p><p>高知県では1991年に「土佐和牛」ブランドを立ち上げた。しかし,このブランドには大きな問題があり,新たに土佐和牛ブランド推進協議会によって「土佐あかうし」のブランドがつくられた。さらに,2012年に地域団体商標への登録が認められ,ブランド化へのはずみがつけられた。</p><p> 褐毛系牛肉は黒毛系牛肉とは異なった価値をアピールする必要がある。そこで着目されたのが,レストランのシェフなどの料理人である。高知県は地方特定品種系牛肉の販売促進イベントに参加,2015年には高知で「土佐あかうしセミナー&赤肉サミット」を開催した。東京から約10店,高知県内から約15店の料理人を呼び,部位ごとの特性を生かした調理法を提案,外食向けの販路を開拓するようになった。その結果,地元の高知県内のみならず,東京や大阪などの飲食店で土佐あかうしを使った料理が提供されている。ここで特徴的なのは,地元では比較的安価に土佐あかうしの料理が食べられるのに対し,大都市では,かなり高級料理という位置づけになっている。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282752329193600
  • NII論文ID
    130007711031
  • DOI
    10.14866/ajg.2019a.0_82
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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