ヨルダン中央高原の河谷にみられるQa’aの形態的特徴

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  • Characteristic of the Qa’a landform found in the central highlands of Jordan

抄録

■はじめに <br> 中東のヨルダン・ハシミテ王国では,砂漠地域の河谷の多くはワジとなっており,その表面は細粒の水成堆積物で覆われる。この水成堆積物からなる谷底表面はアラビア語でQa’aとよばれ,同地域の地形景観を特徴づける。本研究では,Qa’aの成因や地形の変化傾向を明らかにすることを目的として,その形態的特徴を明らかにした。<br><br>■地域の概観 <br> ヨルダンは北緯30°11’~33°22',東経34°59~39°12'に位置し,国土の4分の3は砂漠である。調査は,白亜紀のおもに砂・泥岩,チャート,石灰岩からなる標高800~900 mの高原を開析するWadi Abyadhとよばれる河谷で実施した。調査地付近の年降水量は50 mm程度である(Al-Easawi 1996)。<br><br>■河谷地形とQa’aの形態的特徴および堆積物 <br> 調査を行ったWadi Abyadh は,谷底と周囲の高原の頂部斜面(平坦面)との比高が20~30 m,谷壁斜面の傾斜が2°前後の,非常に浅い河谷である。頂部斜面および谷壁斜面はシートウオッシュが働いて運搬されたとみられる小礫に覆われ,谷壁斜面には所々にガリーが形成されている。Qa’aはこの谷底にみられ,その延長距離は約21km,最大幅は700 mほどの規模で広がる。Qa’a表面の平均勾配は0.6‰(0.03°)であり,ほとんど平坦である。Qa’aの表面には,明瞭な流水によって侵食された痕跡や粗砂~細礫など流水で運搬された堆積物が薄く広がる部分もあるが,大部分は干上がった湖底面のようにみえ,そこには流水の構造は認められない。また,Qa’aの表面には河谷の方向に直行する矮低木の帯が一定間隔でみられる。この植生の帯はネブカとよばれ,Qa’aの表面の谷幅いっぱいに延びる。ネブカは細砂~粘土からなる高さ50 cm前後,幅2mほどの,かなり固結した砂堆をともなう。この砂堆が低い部分の表面に前述の流水の痕跡が認められる。なお,1953年に英国が撮影した1/25000航空写真と2017年に撮影されたGoogleの航空写真とを比較すると,ネブカの位置や規模に変化はほとんど認められない(図1)。Qa’a表層を掘削したところ,地表から4~6cmは,層理が明瞭なシルト~粘土層で,その下位は無層理のシルト・粘土層となっっている。おおむね30cm深に非常にコンパクトなシルト・粘土層がみられ,水をかけても軟化せず,掘削することができなかった。これは最も浅部に存在する難透水層である。<br><br>■考察と課題<br> Qa’aが水成堆積物からなることは確実であるが,その全層厚がどの程度あるかは明らかではない。形成年代については,ヨルダン北西部のQa’aの堆積物から37~32 ka,15.5~13.9 kaの湿潤期に対応する年代値が得られており(Al-Tawash 2007),本地域のQa’aの生成期もそれに対比される可能性が考えられる。また,堆積物の表面に特徴的に形成されるネブカは,少なくとも最近60年はほぼ同じ形態を保っていることから,Qa’aの表面はほとんど変化していないと考えられる。一方,ネブカの成因は,その規則性ゆえにQa’aの表面の構造に規定されていることが考えられるが,現在までにそれを考察する材料は得られておらず,今後の課題である。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763016695424
  • NII論文ID
    130007411933
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000157
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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