中心市街地における空き店舗等の福祉への利活用の障壁と可能性

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  • Barriers and possibilities of welfare services in the vacant storesin the city center of local cities

抄録

1 地域福祉の推進と低未利用不動産<br><br> 少子高齢化を背景とした福祉需要の増大と多様化によって,1990年代以降,日本における福祉政策の多くの領域で,規制緩和と広義の「地域福祉」化が進展してきた.施設設置基準の緩和を含む福祉分野におけるこうした変化の一方で,地方都市の未利用不動産(事業用ストック)の一つである中心市街地の空き店舗は,地方都市において長らく問題として指摘されてきた.コンパクトシティ政策や地方都市でも生じてきた局地的な福祉施設の不足を背景に,「福祉」は地方都市の未利用不動産を活用する新たなアクターとして登場してきたといえる.<br><br> なかでも,子ども・子育て系福祉施設への転用は,中心市街地に子育て世帯の来訪を促し賑わいや消費を創出し,ひいては当該地域の若年人口の増加につながることから,地域活性化やコミュニティ施策の一環として期待されている.他方で,子ども・子育て系施設を含まない利活用もみられるほか,こうした福祉施設への転用には,制度的・経済的・社会的なハードルがあることが予想される.<br><br> 以上を踏まえ,本報告では,子ども・子育て系福祉施設および高齢者系施設への転用が行われた事例を取り上げ,行政・運営者への聞き取り調査から,未利用不動産(特に中心市街地の空き店舗)を福祉へ利活用する際の課題を整理する.<br><br>2 福祉拠点の設置にかかる規制緩和の概況<br><br> 福祉分野では個々の領域ごとに転換に至る経緯や政策内容の細部は異なるものの,総じて1990年代以降,従来の政策枠組みからの転換が進められてきた.転換の軸の一つが,対象による事業の「タテワリ」を排し,地域の多様な主体の連携によるケアの提供と利用者の生活地域との合致を実現しようとする,広義の「地域福祉」化である.高齢者介護を中心とする「地域包括ケアシステム」や多世代・多様なニーズの利用者を想定する「小規模多機能型拠点」等の推進は,こうした「地域福祉」化が端的にあらわれた政策といえる.<br><br> 地域福祉の推進と同時に,大都市での施設不足や中山間地域での人口減少ともあいまって,運営主体や施設基準の変更や規制緩和が進められてきている.たとえば保育施設では,空き店舗,ビルやマンションの一室等での設置が可能になったほか,多機能型拠点も同様のストックを利活用した実践が注目されている.子ども・子育て系福祉施設では,2015年の保育新制度の導入によって定員・面積ともに小規模な施設が公的補助の対象となった.<br><br>3 空き店舗等の福祉への利活用実態<br><br> 空き店舗等の福祉への利活用において障壁となるのは,賃料負担(ボランタリーな主体が中心に活動を担っている小規模な福祉事業では,中心市街地の賃料を負担できるのは一部の「強いリーダー」を持つ団体に限定される),まちづくり関連部署や商店街側の意向(「やはりまちの『顔』なので,福祉施設というよりは商業系に入ってもらいたい」「空き店舗対策として子育て支援施設への活用などの制度はあるが,やはり商店街というからには商業やイベントで賑わいを取り戻していきたい」)といった点が挙げられる.また,子ども・子育て系でも空き店舗等を利用して実施されるのは,現在のところ運営主体や設置場所の制約が小さい「ひろば型支援」のなかでも出張型の割合が高い.<br><br> 他方,「中心市街地だからこそこの場所を選んだ」という積極的な意味付けを行う事業者によって利活用やにぎわい創出への取り組みにつながった事例もみられた.高齢者訪問介護事業所とカフェを併設するこの事例では,利用者の生活地域に合致したケアに関心を持っていた運営者が,かつてのにぎわいの記憶を持つ人々にとっての「街」(中心市街地)へ集うことの精神的な効果に意味を見出した.行政や周辺の店舗からの意見をもとに,閉鎖的な雰囲気にならないよう内部がみえるガラス張りや入り口の看板も工夫して社会的なハードルを軽減したほか,近隣商店と連携した「夜市」などを積極的に行い,「にぎわい」の創出につながる取り組みを行っている.<br><br> 以上のように,商店街空き店舗等を利用した福祉(子ども・子育て系および高齢者系)においては,介護や保育のなかでもケアの中核的な部分が担われるというよりは,地域に接続していくような,よりコミュニティ事業に近接した事業において可能性が大きいことが示唆される.<br>※本研究は,JSPS科研費基盤B(16H03526),同若手研究B(16K16957)の成果の一部である.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763016707200
  • NII論文ID
    130007412077
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000222
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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