熊本県南小国町黒川温泉に関するウェブサイト掲載情報の関心の推移について

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  • The Transition of Interests of Visitors on the Information Website about Kurokawa Onsen Hot Spring Resort, Minami-Oguni, Kumamoto

抄録

1.はじめに<br><br> 黒川温泉は熊本県阿蘇郡南小国町に所在する、熊本県で最も有名な温泉地である。しかし、有名になったのは露天風呂ブームと入湯手形による「露天風呂めぐり」の成功後の1990年代以降である。このため、高度経済成長期に成立した、九州では一般的な観光形態である周遊型観光に取り込まれる時期が遅かったこともあり、現地では受入側の認識と観光客の行動に相違がみられ、過去には対応に苦慮したことも多かった。本研究では、その意識のギャップをどのように具体化できるか、について数値的に証明することを目的とする。<br><br>2.研究手法<br><br> 当初、本研究を遂行するにあたっては、広範囲にわたる文献調査に基づく形でアンケートを作成し、現地を訪問する観光客に対して大規模な対面調査を行い、その結果をもとに意識を探ることを計画していた。しかし文献調査が予想以上に難航したためスケジュールが遅れたうえに、熊本地震が発生して現地の状況は一変したことからアンケート調査を行うことが困難となり、代替手段を検討した。<br><br> 筆者はかつて黒川温泉観光旅館協同組合の事務局長を務めており、在職中は多くの問い合わせに対応してきた経験を持つ。その中で黒川温泉自体が提供している情報で決定的に不足していたのが、他の観光地との周遊に関するものであることに気が付いた。一般的に公的な観光情報の提供は地元の観光協会等が担っているが、これらの団体は基本的に都道府県単位で活動している。ところが、黒川温泉の場合、問い合わせ内容で多かったのが他県の観光地への交通ルートであり、県の枠を超えた対応が求められる形となった。このため通常の情報提供とは異なる対応を考えた。<br><br> 2009年当時はまだSNSはあまり普及していなかった時期でもあったことから、簡易な情報提供サイトのプラットフォームを利用することを検討した。その結果、株式会社アクセルホールディングが提供する道場制投稿系ウェブサイト「まにあ道」において、筆者が「道場主」になる形で「黒川温泉道場」を2009年3月7日に開設した。ここでは旅館組合に寄せられた問合せに基づき周遊以外のトピックも含めた情報を自ら執筆して掲載することで対応してきた。<br><br>そこで、代替手段として「黒川温泉道場」に掲載されたトピックのアクセス数をカウントすることで、黒川温泉への訪問を考えているネットユーザーの意識を探ることとした。この手段では全国規模で訪問見込客の調査が可能であり、おおよそ半年ごとに計測することで、関心の高いトピックへのアクセス数の推移から意識の変化を求めることとした。なお計測は2013年7月から2018年1月まで概ね半年の間隔で行い、上位20位の推移についての記録を分析した。<br><br>3.調査の結果<br><br> 5年間にわたり半年ごとに計測した結果、熊本県の黒川温泉の情報提供サイトにも関わらず、圧倒的に多かったのは宮崎県の観光地である高千穂への交通ルートに関する情報であった。厳密にはトピックが「高千穂→黒川温泉」と「黒川温泉→高千穂」の2つに分かれていたが、「高千穂→黒川温泉」の交通ルートに関するトピックは単独でも1位にランクされていたほどである。但し熊本地震の発生後の2016年7月及び2017年1月では、「路線バスでのアクセス」が1位となったが、事態が落ち着いてきた2017年7月以降は再び「高千穂→黒川温泉」が1位に返り咲いている。<br><br> 黒川温泉道場に関しては、露天風呂めぐりのルールや温泉の泉質に関する情報、混浴の定義に関する内容、旅館のチェックイン・チェックアウトからバリアフリーに至るまで、黒川温泉そのものに関する情報提供のトピックも多く掲載しているが、全体的には交通手段や周遊ルートに関するトピックにアクセス数が集中する結果となった。5位には「大分空港からの移動」に関するトピックが入っており、黒川温泉が熊本県にあるという意識よりも、「九州の観光地」のひとつとして認識されている実態が明らかになった。<br><br>4.考察と今後の課題<br><br> 本研究から判明したのは、少なくともネットユーザーが黒川温泉に関して調べようとしているのは、交通アクセスがメインであることである。しかも、その背景には九州における主たる観光形態が「周遊型観光」であることが改めて裏付けられた。このことは今後の九州における観光情報の提供のあり方を改めて考え直す必要性を示すとともに、誰が主体となってそれを行うべきかが、今後の大きな課題と言えるであろう。<br><br>※本研究はJSPS科研費26360076(研究代表者:能津和雄)の助成を受けた研究成果の一部である。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763018400640
  • NII論文ID
    130007412099
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000298
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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