粘性流体中を沈降する液滴の分裂と変形

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タイトル別名
  • Deformation and Breakup of a Droplet Falling into a Viscous Fluid
  • ネンセイ リュウタイ チュウ オ チンコウ スル エキテキ ノ ブンレツ ト ヘンケイ

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抄録

<p>雨粒の絵を描くと,上がとがったしずくの形を描く人が結構多いが,高速カメラなどを使って写真を取ると小さな雨粒は表面張力のためほとんど球形をしている.少し大きい雨粒では空気抵抗のため底部が平らになる.雨粒の落下運動を模して,3 mm程度の水滴を落下させる実験がなされ,水滴が落下運動中に複数の液滴に分裂することが観察されている.これは空気と水の界面の変形に起因した分裂現象といえる.この実験では空気と水は混ざり合わないため,二流体の界面には表面張力が存在する.では,表面張力が無視できる系ではどうだろうか.</p><p>二流体が混合する系においても,沈降する液滴は自発的に分裂する.この現象は万年筆のインクが水中を落下する過程で観察することができ,J. J.トムソン等により100年以上前に報告されている.この分裂過程における滴の変形形状が海の生き物であるクラゲに似ていることから,ダーシー・トムソンは『成長とかたち』の本の中でクラゲの形態と対比して議論している.</p><p>液滴は水中を沈降する過程で渦輪に変形し,渦輪の不安定化によって複数個の滴に自発的に分裂する.そのことから,渦輪の不安定性は液滴の分裂現象にとって重要な役割を果たしていると考えられている.しかし,渦輪の不安定性の数理的な研究は渦輪が等速度で運動しており,その大きさは変化しないといった場合に限られており,本現象で見られる沈降しながら形も変化していく非定常な系での渦輪の不安定性は従来の枠組みで取り扱うことは容易でない.そのため,液滴の分裂現象の機構は未だ,明確になっているとはいえない.この現象の理解を深めるために,我々は実験的研究を行った.以下に,(1)分裂個数を決定する物理量と(2)分裂を引き起こす渦輪の不安定性の起源に関する実験的研究の結果の要旨を示す.</p><p>(1)分裂個数を決定する物理量</p><p>粘度や初期の流体の密度差,滴の粒径を変化させ,分裂個数mに関する確率分布を調べた.ブシネスク近似の下,密度差による重力の効果を駆動力としたナビエ・ストークス方程式の無次元化から,分裂現象を特徴づける物理量として粘性散逸と重力による駆動力の比Gが得られる.様々な実験条件で確率分布から得られたmの平均値〈m〉とGの関係をプロットするとほぼ1つの曲線上にのり,分裂個数の平均値がGで決まることが分かった.</p><p>(2)分裂を引き起こす渦輪の不安定性の起源</p><p>渦輪の不安定性の起源を知るため,不安定化波長を実験で測定した.得られた波長はレイリー-テイラー不安定性の成長率が最大になる波長とよく一致していた.以上のことから,レイリー-テイラー不安定性が渦輪の不安定化において重要な役割を果たすと思われる.</p><p>不安定化があらわれるときの液滴の鉛直方向の厚みDcと水平方向の幅Lcを通して,(1)の分裂個数と(2)のレイリー-テイラー不安定性の波長が関連づけられるが,DcLcが決まるメカニズムが十分分かっておらず今後の課題として残されている.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 72 (8), 570-575, 2017-08-05

    一般社団法人 日本物理学会

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