脳の大きさは何によって制御されるのか?
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- KOHNO Takao
- 名古屋市立大学大学院薬学研究科
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Description
脳は,認知,思考,感情および記憶などの高次機能を司る臓器である.脳の大きさは,体の大きさに比例して大きくなる傾向があり,クジラやゾウの脳は,ヒトよりも大きい.このような脳の大きさの違いは,大脳を覆う大脳新皮質の表面積の大きさに起因すると考えられている.大脳新皮質には6つの層状の構造があり,一つ一つの層は形態や機能が類似した神経細胞群から成る.これら神経細胞は,胎生期に脳室に面した領域(脳室帯)に存在する神経幹細胞から生まれ,表層側に向かって移動し,適切な場所に配置されることで層構造ができる.<br>ヒトとマウスの大脳新皮質の外見上の大きな違いは,ヒトの大脳にはマウスには無い「しわ」があることであり,頭蓋の限られたスペース内に大脳新皮質を折りたたむために「しわ」ができたと考えられる.また,ヒトでは脳室からやや表層側の領域(脳室下帯)に,basal radial glia(bRG)細胞という神経幹細胞が多数存在し,この細胞から多くの神経細胞が生まれると考えられている.しかし,どのような遺伝子の働きによって脳の大きさの違いが生まれるのかは分かっていなかった.<br>本稿では,脳の大きさを制御する遺伝子の同定を試みたFlorioらの研究を紹介する.彼らは,ヒトの神経幹細胞はマウスには発現しないヒト特有の遺伝子を持つのではないかと考えた.そこで,ヒト中絶胎児とマウス胎仔の大脳新皮質から,様々な種類の神経幹細胞を分離した.これら神経幹細胞をRNAシークエンスにより解析し,マウスに比べヒトのbRG細胞に高発現し,かつマウスの相同遺伝子(オーソログ)ではないヒト特異的な遺伝子を探索した結果,ARHGAP11Bを同定した.<br>なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.<br>1) Hansen D. V. et al., Nature, 464, 554-561 (2010).<br>2) Florio M. et al., Science, 347, 1465-1470 (2015).<br>3) Antonacci F. et al., Nat. Genet., 46., 1293-1302 (2014).
Journal
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- Farumashia
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Farumashia 52 (1), 75-75, 2016
The Pharmaceutical Society of Japan
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282763036692864
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- NII Article ID
- 130007448380
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- ISSN
- 21897026
- 00148601
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed