結晶の周期性が途切れたら―サブサーフェス電子状態―

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タイトル別名
  • Electronic States Caused by the Truncation of Crystal Periodicity
  • ケッショウ ノ シュウキセイ ガ トギレタラ : サブサーフェス デンシ ジョウタイ

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抄録

<p>我々の身の回りの多くの物質は結晶の形で存在している.結晶中では,結晶の種類毎に決まった原子が一定周期で配列している.結晶は極めて多数の原子から成っているにも関わらず,この周期境界条件があるために電子物性におけるバンド理論のように極めて単純かつ現実に即した形で物質の諸物性を記述し,理解することができる.</p><p>このような3次元の結晶内部(バルク)とは異なり,結晶の表面近くでは上述のような周期境界条件が破れ,様々なバルクとは異なった状況が生じる.表面特有の原子配列構造によって現れ,結晶最表面1~2原子層に局在する「表面電子状態」はその典型例である.一方で,表面原子構造の再構成が無い場合にも,結晶表面における3次元の周期性の終端それ自体がバルク電子状態に変調を起こし,表面以下の比較的広い原子層領域(サブサーフェス)に局在する2次元的電子状態へと変化させることがあり得る.後者の特徴を持つ電子状態に関する研究の歴史は古く,結晶の周期境界条件を利用したバンド理論の確立後間もない1930年代には既に理論的に予測されていた.しかし半導体表面においては上述の表面再構成構造が現れやすいことなどから前者の枠組みで理解される表面電子状態に関する研究が長年支配的であり,バルク電子状態と表面電子状態は全く別の起源を持つ状態として理解されてきていた.</p><p>本研究では,筆者等は半導体であるGe単結晶の(111)表面に様々な原子を吸着させた表面の電子状態について角度分解光電子分光(ARPES)および第一原理計算により,これまで注目され難かった後者の特徴を持つ2次元的電子状態を発見した.この2次元電子状態は吸着原子種にあまり影響されず,基板結晶であるGeの寄与が支配的であった.さらに得られた電子状態の波動関数の空間分布を解析すると,結晶最表面の1~2原子層ではなく,むしろ表面から数十原子層にわたる「サブサーフェス」領域に幅広く分布し,バルクに向けて指数関数的にゆるやかに減衰するという特徴が明らかになった.これらの特徴はむしろバルク電子状態との類似性を示すものであったが,にも関わらず結晶表面垂直方向にはバンド分散を示さないことや,結晶表面における空間反転対称性の破れに起因する特徴的なスピン・軌道偏極構造(Rashba効果)を示すことなど,2次元電子状態に特有の性質も同時に示された.以上のような特徴から,今回見いだされた電子状態はこれまで顧みられることの少なかったもう1つの表面電子状態形成過程によるものだと考えるのが妥当である.</p><p>本研究で同定された半導体の「サブサーフェス電子状態」の,バルク電子状態との強い関連性と周期性の打ち切りによる2次元的な局在化という特徴は,昨今極めて盛んに研究されているトポロジカル表面電子状態と共通のものであり,本研究を通じて結晶終端面に現れる電子状態について共通の枠組みによる理解を進めることができた.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 73 (3), 154-159, 2018-03-05

    一般社団法人 日本物理学会

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