ハワイ・アリゾナ記念碑における日本の表象とジェンダー

書誌事項

タイトル別名
  • Gender Perspectives on How Japan is Represented in the USS Arizona Memorial
  • ハワイ ・ アリゾナ キネンヒ ニ オケル ニホン ノ ヒョウショウ ト ジェンダー

この論文をさがす

抄録

<p>本稿は、1941年太平洋戦争勃発の契機となった日本海軍による真珠湾攻撃によって、沈没したアメリカ戦艦アリゾナを記念する「アリゾナ記念碑」とその付属博物館施設における日本の表象を、シンポジウムの趣旨である日米関係の中の「戦後民主主義再考」という観点から、「平和」と「暴力」のイメージに着目しつつ、歴史的変遷をたどりながら考察を行なった。</p><p>第二次世界大戦終了後、戦艦アリゾナの遺構をめぐるアメリカの世論は必ずしも一致しなかった。しかし、戦没者の慰霊という本来の目的を超えて、ハワイ州の観光産業振興、ベトナム戦争によって失墜した軍の威信回復など、複数の利害関係者による交渉の末、過去の軍事的失敗への戒めとして、アリゾナ記念碑は建立された。</p><p>人気観光スポットとなったアリゾナ記念碑における見学者の待ち時間対策として、後に建設された付属博物館ビジターセンターでは、当初「野蛮な」敵としての日本軍のイメージを打ち出していたが、施設のリニューアル後は日米関係の歴史を世界史的な視点から丹念に追い、以前は敬遠された戦時におけるハワイの日系人男女の表象も取り入れている。特に、これまでは忌避された原爆のイメージの展示として、《原爆の子の像》のモデルである佐々木禎子による折鶴が採用された。本来治癒祈願として制作された禎子の折鶴は、その物語が繰り返し語られるなかで、平和のナラティヴとしての「サダコ・ストーリー」へと転化した。また、アメリカに保護される戦災孤児、無力化された天皇とマッカーサーの会見写真の展示など、徹底した日本の女性化が試みられる。</p><p>アリゾナ記念碑が史上初めての軍事的な失敗による男性性喪失から回復を遂げるアメリカの表象であるのに対し、戦後日本は「平和を願う少女」などの女性化されたメタファーで表象された。あらゆる暴力の否定を前提に日本を「女性化」=「平和化」しなければ、「日本」の展示は不可能だったと考えられる。</p><p>アメリカが、「力による支配」によって維持される「本物の民主主義」を体現する国家であるのに対し、日本は「あらゆる暴力の否定」の上に成立する、「偽物の民主主義国家」であるという日米間のジェンダーポリティクスが立ち現れているといえよう。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ